その日はいつもよりも空気が重かった。

「例年よりも猛暑のため、人々の不満が徐々に溜まっています。強い鬼がいつ出現してもおかしくありません」

気をつけて任務に当たってください。としのぶさんは私達に伝えてくれる。
確かに最近は鬼の数も以前に比べて多い。
梅雨や猛暑など季節によっても怨念は溜まりやすく鬼が絶えることがない。全く、人はすぐに不満を溜めるんだなと今世の鬼狩りになってから嫌と言うほど思い知らされる。


いつもの屋上で連絡を待っている間、あまりの蒸し暑さに私達は軽口を叩いていた。

「あっつい!風もないし…熱中症になっちゃうよ」
「なあなあ凛。熱中症ってゆっくり言ってみ?」
「小学生か!言わないよ!」
「ねっちゆうしよ?」
「伊之助、善逸の悪ふざけに乗っからなくていいんだぞ?」

いつも通り4人でそんな風に喋っていると最初に善逸に連絡が入り、次に伊之助に連絡が入った。
2人ともじゃあまた後で。といつも通りの様子で町へと降りて行く。
あまりにも普通の光景だが、今この瞬間も私達は命を賭けているのだ。我ながら、前世も今世も普通の仕事をしないなぁと少し苦笑いをしてしまう。

『──凛さん、炭治郎君。聞こえますか?』

しのぶさんからの連絡がイヤホンを通して聞こえてくる。私達は「良好です」と答えて言葉の続きを待った。

『今日はお二人には別々の地区を担当してもらいます。もし何かあった場合はお互いで連絡を取って駆けつけてください』

私達は隣同士の地区を言い渡され、お面をつけて刀を握り町へと降りていく。
途中までは一緒に現地へと向かい、別れ道で炭治郎は一度お面を外した。

「凛!何かあったらすぐに連絡をしてくれ!」

いつも通り私を心配する声に、私もお面をずらして笑顔を向けた。

「炭治郎こそ!何かあったらすぐに駆けつけるからね!」

そう言うと炭治郎は優しげに微笑んで「分かった!」と返すと闇夜に消えていった。
こんな時だというのに、好きという気持ちが募る。
だけど、任務に集中しなければ。
私は炭治郎達みたいに優れた五感は持ち合わせていないから嫌な気配や勘で鬼を探すしかない。
そして、明らかに嫌な気配を感じた間道へと入っていくと小さな女の子の見た目をした鬼が蹲って泣いていた。

「……うっ、あなた、だあれ…?」

ああ、一番嫌なタイプの鬼だ。
ごく稀に人の姿を綺麗に形取っている鬼と出会うことはあったけれど、それがこんな小さな女の子なのは初めてだ。
だけどこの子が鬼なのは間違いなくて、私はこの子を斬らなければいけない。
刀を構えると女の子はひっ!と声をあげて両目からぼろぼろと涙を流す。

「私のこと、斬るの…?」
「ええ、斬るわ」
「じゃ、じゃあ…斬る前に、少しだけ…お話したいの…」
「お話?」

鬼の提案に首を傾げる。
…目の前の鬼からは殺意も敵意も全く感じられない。こんな鬼は初めてだ。…見逃してあげることは出来ないけど少しだけ話をするくらいなら…

「うん、あなたと…お話がしたいの…」
「……いいよ、何を話したいの?」

万が一のためにいつでも斬れるように刀を構えたまま私は目の前の鬼にそう伝えると、その鬼は嬉しそうに顔を綻ばせた。

「あなたの おはなしを きかせて」



「凛!!」

肩を揺さぶられて覚醒する。私は、何を…?

「大丈夫か!?いくら連絡を入れても応答がなかったから駆けつけたんだが…何があったんだ?怪我は…なさそうだけど」

とても心配そうに私のことを見つめて、優しく声をかけてくれる。
えっと、私は…ここは…?

「た、」
「ん?」
「たん、じろう」
「? どうしたんだ凛」

たんじろう。
そう、それは私の大切な人の名前。
大好きで、私の全てで。
でも…

「あの、」

たんじろうの目を見て私は彼に尋ねた。

「凛って…誰?」


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