目が覚めた時、私は全てを思い出していた。
鬼の女の子を斬ったことにより記憶があるべきところへ帰ってきたのだろう。

あの鬼の女の子は私に「話をしよう」と提案をして私はそれに対して「いいよ」と答えた。
それが血鬼術の発動条件だったのだろう。そして私の記憶を徐々に奪うだけで殺すことをしなかった鬼の女の子。…人の思い出を奪って自分のものと錯覚する。それはとても寂しいことだ。
人の怨念から生まれた鬼は人間らしさを備えていることが多く、今回の鬼はまさに「人との思い出が恋しかった」のではないのだろうかとしのぶさんも言っていた。

「竈門のこともう忘れんじゃねェぞ。鬱陶しくてしょうがねぇ」
「あはは…不死川さんも優しくしてくれてありがとうございました」
「…まァ、戻って良かったな」

不死川さんも、そして他の皆も記憶が戻ったことが分かると喜ぶのと同時に口を揃えて「もう忘れないでくれ!」と言ってきてくれた。
勿論、忘れるつもりなんて全くないし忘れていた間も優しくしてくれた皆には感謝しかない。
……のだけど。


「うーん、炭治郎さん?」

部屋に戻るなり炭治郎に抱き抱えられてベッドまで連れて行かれ、そのまま後ろから抱きしめられる形で私達はベッドに座っている。
記憶が戻ってからというもの、2人きりになると炭治郎はずっとこの調子だ。
私に触れてないと気が済まないのか、身動きが出来ないほどがっちりと抱きしめられている。
……これは、多分。

「炭治郎、その。…寂しい思いさせてごめんね?」

そう言うと炭治郎の力が少し緩んだので、体ごとくるりと後ろを振り返ると寂しそうにしている炭治郎と目が合う。

「…凛は凛だから、変わらず大好きだったけど…やっぱり寂しかった」

素直に寂しいと口にする炭治郎が可愛くて、そのまま頭に手を添えてぎゅぅ、と抱きしめると炭治郎も私のことを抱きしめてくる。
私が記憶を無くしていた時、炭治郎は不安な素振りなんて見せずに気丈に振る舞っていたがこれは相当無理をさせてたみたいだ。
前世からの付き合いだけど、こんなにも置いて行かれたくない子供みたいに縋る炭治郎は初めて見た。……いつもしっかりしてる炭治郎のこんな姿はその、とんでもなく愛おしい。

「ごめんごめん。もう忘れないから、そんな寂しそうにしないで。ね?」

そう言って頭を撫でると炭治郎がちょっと拗ねたように顔を上げて、また私の胸へと顔を埋める。いやらしい感じではなく、本当に甘えている…
私も今世で炭治郎に再会した時は寂しかったもんなぁ…炭治郎がこうなる気持ちも分からなくはない。

「凛。凛の心の準備が出来たら俺は凛にあるものをプレゼントしたいって考えていたんだ」

そう言って炭治郎は一度私から離れて、何故かベッドの上に正座をするので私も炭治郎の真似をするようにベッドの上で正座して二人で向かい合う。なんだこれ?

「心の準備、出来たか?」
「? うん。プレゼント…?」

私がそう答えると炭治郎は一度大きく深呼吸をして、真っ直ぐと私の目を見据えた。


「俺の苗字をもらってください!竈門凛さん!」


炭治郎に最高のプレゼントをもらった私は、絶対にこの名前を忘れないと心に誓うのだった。


「あ、だから竈って書けるようになってほしかったの?」
「…!書けるようになったのか?」
「うん。ほら」

竈門凛とノートに書くと炭治郎はとても嬉しそうに私に飛びついてくるのでした。







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