最終章 壱


炭治郎と冨岡さんと共にお館様の元へと向かった私達の見たものは、屋敷が爆発して燃え盛る光景と人を鬼に変えた元凶である鬼舞辻無惨の姿だった。
私達は皆、刀を抜き無惨に斬りかかろうとするも足元が突然抜けてしまいバラバラに散らされてしまった。

状況が飲み込めないが、状況が悪いことだけはわかる。とにかくすぐに体勢を立て直さなければ!このままでは底に叩きつけられて死んでしまう!

「凛ちゃん!」

聞き覚えのある声と共に手が掴まれて思い切り引き上げられる。私を助けてくれたのは蜜璃ちゃんで、彼女と共に伊黒さんの姿もあり、そして──

「鬼!?」

大量の鬼が私達に襲ってくるが、その鬼達を

「蛇の呼吸 伍の型 蜿蜿長蛇」

伊黒さんはあっという間に斬り伏せてしまった。

「甘露寺に近づくな、塵共」

か、格好良いな!?
そんな伊黒さんに蜜璃ちゃんも興奮しきっていてこんな状況だというのに少しだけ和んでしまう。

「お前も大丈夫か?」
「あ、はい!私のことはお気になさらずに!」

むしろ二人の空間を邪魔してしまって本当に申し訳ありません…!と心の中で謝りながらも私と蜜璃ちゃんと伊黒さんは三人で行動をすることにした。


***


この建物には信じられないほど多くの鬼がいて、一人一人の強さは私達の敵ではなかったためあっという間にその姿を塵にしていく。
この人達は、何故鬼にされたの?
今日この日に私達の足止めをされるためだけに鬼にされたのだろうか。皆言語すら喋らず獣のように私達を襲ってくる。私達はそれを斬って斬って斬り捨てて。一体どれだけの命を鬼へと変えたというのか。その行いは許せるものではなかった。

そして、その間にもこの建物は形を変え続ける。間違いなく鬼の血鬼術だ。この血鬼術を使っている鬼をなんとかしなければ最後に追い詰められるのは確実に私達だろう。
先ほどから鎹鴉が沢山の情報を私達に伝達する。皆、戦ってそして、つい最近まで笑い合っていた人達が死んでいく。
その現実はとてもではないが受け入れることは出来ない。だから今は、ただ前だけを見て成すべきことを成す…!

「見つけた!伊黒さん、凛ちゃんあっち!上弦の肆だわ!」

蜜璃ちゃんが見つけたのは琵琶を持った女鬼だ。上弦の肆…!私達が鍛治屋の里で倒した鬼の中に上弦の肆がいたはずたけど、もう補充されている…!
蜜璃ちゃんは軽い身のこなしで上弦の肆へと斬りかかる。ベンっという琵琶の音が鳴ると空気が揺れて蜜璃ちゃんの目の前に戸が現れて弾かれた蜜璃ちゃんを伊黒さんは救出した。

そのあとも琵琶の音が鳴る度に足元の戸が開いたり、壁が襲ってきたりする。あの鬼はこの建物全体を操れることが出来るんだ!

「風の呼吸 陸の型 ──!」

間合いを詰めて一気に頚を切ろうとしても足場を戸にされて別の空間に吐き出されてしまう。

「くっ…!」

あの鬼を倒すには気配を絶対に悟られてはいけない。そして、あの鬼を斬ってしまった場合この建物はどうなる!?このまま形を維持できるのか、私達は外に出られるのか。あの鬼に手を出すにはあまりにも情報が足りないが放っておくには危険すぎる相手だ。どうすれば…!

「凛ちゃん!」

その時、蜜璃ちゃんに呼ばれて振り返るとそこには蜜璃ちゃんと……

「いいかよく聞け。俺は鬼だが味方だ」

鬼の男の子の姿があった。


***


鬼の男の子は琵琶の鬼の頭を乗っ取ってこの建物を操る能力を支配すると言う。
危惧していたようにあの琵琶の鬼が死ねばこの建物は崩壊して私達は押し潰されて死んでしまうというのだ。軽率な行動をしなくて良かった。

まずは死んだふりをして無惨を油断させて、それからは琵琶の鬼へと注意を向かせないように無惨に攻撃を仕掛けてくれと言われ、そして私達が辿り着いた先に、恐ろしげな風貌をした無惨の姿があった。


「やめなさいよー!!」

無惨と今まで戦っていてくれたのは冨岡さんと炭治郎で、炭治郎が殺される寸前のところを蜜璃ちゃんが斬り込み、私と伊黒さんで炭治郎を救出することに成功した。

「伊黒さん…良かった…生きてる…甘露寺さんも…凛も……!」

無惨の油断を誘うための死んだふり作戦だったのだが、炭治郎にも心配をさせてしまったらしい。炭治郎は右目を潰されていて既に満身創痍だ。無理はさせたくない。
そうしている間にも愈史郎君はこの血鬼術を使っている鬼と戦い続けてくれている。
私達は隙を見つけては無惨に斬りかかる。今まで出会ったどの鬼よりも禍々しい空気を放つ無惨が怖くないかと言えば嘘になる。
だけど、止まることはできない。ここで無惨を逃がせば命をかけて戦った仲間の命が無駄になり、これからも鬼にされる人間が出てしまうからだ。それだけは絶対に許せなかった。もう、美琴のような子を見たくない──!

──風の呼吸 参の型 晴嵐風樹!

擦り傷程度でも、防がせるだけでもいい!とにかく隙を作らせるんだ!無惨の思考を分散させて…!

べん、という音が聞こえた気がすると私達の足元が大きく開いて落とされてしまう。
そこには仲間の遺体が沢山転がっていて、あまりにも凄惨な光景に目を逸らしたくなる。だけどそんな暇はない。無惨は凄まじい速さで腕を振るって私達を殺そうとしてくる。

ギギギギっ、という音と共に城が軋み出す。愈史郎君が琵琶の鬼を殺してしまったのだろうか。万が一琵琶の鬼を殺してしまった場合は俺が全員外に出すと愈史郎君は言っていた。今はその言葉を信じるしかない!

そして私達は体ごと投げ出され、見上げればそこに夜空が広がっていた。

永遠のような闇夜




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