柱稽古編 肆


炭治郎と一緒に水柱である冨岡義勇さんの元へと向かっている道中、二人で禰豆子ちゃんが恋しいね…と少ししんみりとした空気を醸し出しながら歩いていると見覚えのある人の姿が見えた。

「あ、実弥さんだ」
「義勇さんだ!」

咄嗟に私達は物陰に隠れて二人の様子を見守ると、二人は打ち合いを始める。
実弥さんは今まで見た中で一番の速さと力強さで冨岡さんに斬りかかり、冨岡さんも炭治郎と同じ型を洗練された動きで繰り出す。
その打ち合いは凄い、と言う言葉だけでは飽き足らずもはや「美しい」

二人の型がぶつかり合い、持っていた木刀が折れる。
引き分けだ…と思っていれば実弥さんが「素手で殺し合うかァ」なんて物騒なことを言い出すので私と炭治郎は慌てて止めに入った。

「先刻から盗み見しやがって。凛、お前もかァ」
「うん。実弥さんも冨岡さんも凄かったです!」
「…純粋な感想を言うんじゃねェ!」

調子が狂うだろうが、と実弥さんは頭をガリガリと掻く。それに…

「冨岡、義勇さん?」
「ああ、そうだ」
「以前、那田蜘蛛山で助けて頂きありがとうございました!柱だったんですね…!」

とても遅くなってしまったが、異形の鬼と苦戦を強いられていた時に私と伊之助を助けてくれたのはこの人だ。炭治郎と同じ型を、力強く美しく放った姿は今でも覚えている。
私がそう言うと、冨岡さんはああ。と思い出したように頷いてくれた。

「そうか…あの時の」
「はい!それで、冨岡さんの稽古を受けにきたのですが…」
「俺の稽古は今の不死川とやっていたことをやってもらう」

……え?今のを?

「オイ凛。冨岡に負けんじゃねえぞ」
「いや、無理ですよね…!?」
「義勇さん!よろしくお願いします!」


実弥さんはそう言い残すと帰ってしまい、私と炭治郎は交代で型を使った打ち合いを冨岡さんと繰り返し行った。
冨岡さんの水の呼吸はとにかく綺麗だ。一つ一つの型の流れに無駄がなく、息を吸うように型をどんな体勢でも繰り出してくる。

「遅い」
「っ、はい!」

私も炭治郎も鍛えられただけあって、冨岡さんの動きも見えるし、対応することも出来る。
それでも埋まらない何かがあり、一瞬でも気を抜くと一本を取られてしまう。柱って本当に強いんだな…と炭治郎と感動するのであった。


冨岡さんとの稽古は夕方で一度切り上げられ、また明日の朝から打ち合うこととなった。
炭治郎と私はまだ体力が残っているからと型の稽古に取り組むことにしたのだが、炭治郎がヒノカミ神楽の型を振るうと言うので久々に全てを見学させてもらうことにした。

「……すごい」

私は炭治郎がこのヒノカミ神楽を使うようになってから、暇さえあれば見学をさせてもらっていた。最初の頃は二つ目の神楽を舞った時点で地面へと倒れていたというこに、炭治郎はついに十二個全ての型を一度も止まることなく振るったのだ。
そして最後に、あの構えもする。ああ、それはまるで──


「はぁ、はぁ…!休まずに全部出来たぞ…!」
「凄い!本当に凄いよ!凄く…綺麗だった」

そう言うと炭治郎は嬉しそうに微笑んでくれる。

「じゃあ次は、凛が舞ってくれるか?」
「え?ヒノカミ神楽を?」
「うん。凛が舞うのを見るのが大好きなんだ」
「私の場合は本当にただの舞いだけど…それでも良ければ」

そう言うと炭治郎は「是非」と言うので私はヒノカミ神楽の舞を順番に舞っていく。
炭治郎みたいに力強く、鬼を斬るものではないただの神楽。一目見た時から惹かれて仕方がなかった神楽を最後の一つまで舞って、

「……ああ」

最後にゆっくりとあの構えをする。
舞い終わった後、炭治郎は私にまるで、と。私が炭治郎に抱いた感想と同じ言葉を口にするのだった。


そして後日、冨岡さんと柱稽古を行なっていると鎹鴉が飛んできて私達に「緊急招集」を伝えに来た。

──産屋敷邸襲撃と。

悪夢のような知らせ




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