柱稽古編 壱


炭治郎とお互いの想いを伝え合い、怪我も完治した私は炭治郎よりも早く柱稽古へと復帰をした。
いってくるね、と言った時の少し寂しそうな炭治郎の顔は後ろ髪を引っ張られるような思いだった。それこそ、炭治郎は想いが通じ合ってから、そして後悔のないように生きると決めたからか私に対して「好きだよ」とか「可愛い」とか。まるで日常会話をするように伝えてくるようになったのだ。同室の玄弥からは何回も鬱陶しい!と怒られたけど炭治郎はやめないし、私も満更でもないので止めず。ごめん玄弥…!
確かに私ももっと炭治郎と一緒にいたいけど…それでも!少しでも強くなるために私はまず最初に宇髄さんの稽古へと参加をするのだけど。

「ハイハイ!お前は上弦と二回も戦ってんだからもう少しいけるだろ!あと三本走ってこい!」

あ、これ。嗣莉さんの時に走馬灯が見えたやつと似てますね?


宇髄さんの稽古は単純ゆえにまさに地獄。体力が残っていようものならまだいけるな!とひたすら走り込みをさせられ、慣れてきたら足場の悪い道や、坂道が続く道をひたすら走らされる。
確かに辛いものでもあったが、ありがとう嗣莉さん。最初の頃に気絶するまで休憩なし。といった鍛錬を行なってきた私にとっては宇髄さんの稽古は比較的やりやすかった。いやしかし、何が困ったかというと。

「それで竈門とはどうなったんだ?」
「ぶふーーっ!!」

宇髄さんの奥さんに渡された水を思い切り吹き出してしまう。な、なな、何を言い出すんですかこの派手柱は!大体稽古には全く関係なくない?
適当に流してしまおうと「ははは…」と愛想笑いすると何故かそれにより全てを察した宇髄さんは嬉しそうに私の背中をばしっ!と叩いた。

「お!ついに想いが通じ合ったか!お前ら見ててもどかしかったからな!」
「は!?な、なんで分かるんですか…!?」
「ははは!今確信になったけどな!」

なんてまさかの精神攻撃をしかけてくるものだからタチが悪い。

「凛、好きなやつがいるってのは存外悪いもんでもないんだぜ?」
「ええ、その人のために生きようと思えるわ」
「思い出すだけで力が湧くしな!」
「何より、幸せですよぉ〜!」

いや、宇髄さん含めお嫁さん達まで総出で私のところに集まるのはやめて頂けないかな…!?
そんなこんなで、精神攻撃と稽古両方を受けながら私は宇髄さんの稽古を十四日で終えて次の稽古場へと向かうのだった。


***


「はい、無駄な力使ってるよ」
「痛ぁっ!」

ばしっ!と容赦なく私の頭に竹刀を叩きつけるのは霞柱・時透無一郎だ。
私よりも歳下の彼は、私なんかより全然強くて一撃も重く動きも速い!
だけど速さだけなら捌き切ることが出来る。それを見て時透さんはふぅん、と声を出す。

「君、刀鍛冶の時に甘露寺さんの援護をしたんだよね?」
「あ、はい…時透さんももう一人の鬼を斬ったって聞きました!」

あの時、あの里にはもう一人鬼が来ていたのだという。しかもそちらも上弦の鬼だったと。時透さんに蜜璃ちゃんがいなければ確実にやられていただろう。しかも時透さんは上弦の鬼を一人で斬ってしまったというのだから驚きだ。本当に凄い人だ。

「うん。他の隊士より全然速いし伸び代もあるよ。柔軟性も悪くないし」

何だかとても褒めてもらえてるみたいでちょっとむず痒い。ここに至るまでに嗣莉さんや実弥さんにぼこぼこに鍛えられた甲斐があったというものだ。

「だからあとは、体力が保つように極力無駄な力を入れないように。だけど入れるべきところには力を入れるように調節するよ」

はい、構えて。と時透さんが言う。
…言葉って難しいですね。要するに体力を保たせるために力を抜いて力を入れるんですね。うん、分からない。分からない時は──

「よろしくお願いします!」

実践あるのみ!
その後私は時透さんの訓練を受け続け、休憩中は何故か「炭治郎と同期だよね?」と炭治郎のことをよく聞かれ。いや、私は炭治郎伝言係ではないのですがと思いながらも時透さんから炭治郎への情のようなものを感じられたので二人で炭治郎の良いところを語り合うというよく分からない絆を作り上げてお互いのことを名前で呼び合うほどに打ち解けていた。


「うん、いいね。次の柱のところに行っていいよ凛!」
「無一郎君、ありがとうございました!凄く勉強になったよ!」
「僕も楽しかったよ。また炭治郎のことを話そうね」

なんてとてもいい笑顔で送り出されたのは無一郎君のところへ訪れて九日目のことだった。


***


「きゃーー!ようこそ凛ちゃん!いらっしゃーい!」

次の柱稽古は恋柱である蜜璃ちゃんの稽古だ。
私を見つけるなり走ってきて抱きついてくれる蜜璃ちゃんはやっぱり良い匂いがするし可愛いしそして胸が大きい。
どんな稽古をするんだろうなと思っていると

「パンケーキを食べましょ!紅茶も入れてあげる!」

と言われてとても甘くて美味しいぱんけぇきというものと紅茶というものをご馳走されるところから始まったが、その後も思ったよりもめちゃくちゃで。
よく分からない服に着替えて、音楽に合わせて踊ったり、蜜璃ちゃんによる柔軟のほぐしを受けたのだが……この稽古はとても楽しく、蜜璃ちゃんとほとんど遊んで終わったくらいにはすぐに終えてしまった。
もともと風の呼吸に柔軟性は欠かせないもので、それこそ筋が切れてしまうのではないかというほど私は嗣莉さんに四年間で解され、実弥さんに二月で人間であることを忘れろォと言われるほど解されたのだから全く問題なく蜜璃ちゃんの稽古は終えてしまった。

「寂しいわぁ!凛ちゃんともっと遊びたかった!」
「遊びって言っちゃいましたね!?」

最初から最後まで可愛らしい蜜璃ちゃん。
彼女が凄い実力者なのは私も、鬼殺隊の皆も知っている。
そんな彼女からよく話を聞いていた蛇柱・伊黒小芭内さんの道場へと私は次に向かうのだった。

ぱんけぇきは美味しい




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