刀鍛冶編 参


玄弥と一緒に鍛錬をするようになってから一週間と少しが経った。
最初の頃こそ私とあまり目を合わせずにぎくしゃくしていたが、初日が終わる頃にはすっかりそんなこともなくなり普通に接することが出来るようになっていた。
玄弥曰く「女の子を前にすると緊張してしまう」とのこと。うん。初日の時点で玄弥とずっと打ち合いをしてきた私は見事に玄弥の言う「女の子」の枠から外れたようだ。…別に良いけどね!

玄弥は呼吸が使えないと教えてくれた。
酷く言いにくそうに、悔しそうにそう口にしたけれど私からしたら、

「呼吸が使えなくても最終選別を生き残って、今日まで戦ってきたの!?凄いね玄弥!」

これが本音だった。だって凄すぎるじゃないか。
呼吸が使えない私は嗣莉さんからは「今鬼殺隊に入ったらただの餌」と言われたくらいには使いものにならなかったのだから。
玄弥は元々の身体能力が高いのだろう。腕相撲も一応しておいたけどうん。岩だったねもはや。微塵にも動く気配すら感じられなかった。

「………お前、良い奴だよな…」
「え?なんで?」

そんなこんなで私と玄弥は打ち合いをして、鬼ごっこをして、そして見たこともない玄弥の武器に興味津々で食い付きその戦い方を教えてもらいと有意義な時間を過ごすのだった。

「兄貴も凛と同じ型を使ってるんだよな?」
「そうだよ。でも、実弥さんのは私のとは比べものにならないくらい力強いけどね」

自慢のお兄ちゃんだね、と言えば玄弥は少しだけ寂しい表情をした後「うん」と優しく微笑んでくれた。
玄弥はお兄ちゃん…実弥さんのことが好きなんだと思う。だけどきっと喧嘩か何かをして拗れてしまってるんだろう。でもそれはさ、

「玄弥、実弥さんとちゃんと仲直りしてね」
「……喧嘩って、わけじゃないんだけどな」
「でも、二人とも生きてる。それだけでも本当に幸せなことなんだよ」

私の言葉に玄弥は目を見開く。そして私の言葉の意味を察してくれたのか何故か「ごめん」と謝ってきたので私は不意打ちとばかりに玄弥の頭をバシッと軽く叩き、「なんで謝るの!」と笑えば玄弥はやっぱり優しく笑ってくれた。


***


「そっかあ、凛と玄弥は二人で鍛錬をしてたんだな!俺も一緒に鍛錬したかったな」
「でも炭治郎もこの一週間、死ぬほど鍛えたんじゃないの?」
「分かるか?」
「うん。だってなんか痩せたもん」
「ははは…うん、あれは……辛かったな…」

なんて俺の部屋で煎餅を食べながら楽しそうに談笑しているのは凛と竈門炭治郎だ。
百歩譲って凛は分かる。この一週間俺と一緒に鍛錬をしてくれて、その、友達にもなれたと、思うから…
だけど竈門炭治郎。何故こいつまで俺の部屋にいる!?

「炭治郎はまだ新しい刀を受け取ってないの?」
「うん。今凄い刀を研いでもらっているんだ!」

きらきらとした笑顔で竈門炭治郎が言う。凛の刀は今日新しいものが届いたが、竈門炭治郎はまだのようだ。いや、そんなことよりも!

「絶対に覗きに来るなって言われてるんだけどさ、見に行ってもいいかな?」

竈門炭治郎は当たり前のように俺にまで話をかけてくる。

「知るかよ!出てけお前!友達みたいな顔して喋ってんじゃねーよ!」

そう言うと竈門炭治郎は驚いた顔をして「俺たち友達じゃないの?」なんて聞いてくるから頭が痛くなる!お前は俺の腕を折ったんだからなと言えば竈門炭治郎は女の子を殴った玄弥が悪い、と正論をぶつけてくる。くそ!あれは忘れたい記憶なのに掘り起こしやがって…!というか!

「下の名前で呼ぶんじゃねぇ!」

俺がこれだけ怒っていると言うのに「お煎餅おいしいよ、食べる?」だの、俺が捨てた歯を「とってあるよ」と見せてきたり。いや、こいつ変な奴だな!?俺が出てけ!と竈門炭治郎を蹴り飛ばすと凛は「後で部屋に行くねー」と竈門炭治郎に声をかけて竈門炭治郎もそれに対してなんの疑問も抱かず「待ってるなー!」と襖越しに声をかけてくる。は!?夜だぞ!?なんで男の部屋に女のお前が行くんだよ!

「え?ああ、炭治郎の妹さんのこと聞いてない?」
「妹?あいつ妹がいるのか?」
「うん。禰豆子ちゃんって言うんだけどね。禰豆子ちゃんは鬼にされちゃってるの」
「は、はぁ!?」

鬼に!?だったら斬らなければいけないだろう!俺達はそういう集団だ。鬼は殺さなくてはいけない。だから兄貴だってあの時…

「禰豆子ちゃんは今まで人を食べたことがないし、むしろ人のことを私達と一緒に守って戦ってくれてるんだよ」
「は…?そんなこと、ありえないだろ…」
「ね。私も禰豆子ちゃんは本当に凄いなって思う。…禰豆子ちゃんも、望まずに鬼にされてしまった人も人間に戻せる道はないかって私と炭治郎は探してるんだ」

そんなものは聞いたことがない。
鬼は人を襲って食ってしまう。俺は目の前で見たんだ。鬼にされた人が人を殺すところを。そんな夢みたいな話があってたまるかと思うのに、それを羨ましいと思ってしまう自分もいて、不快だ。

「…私もね、妹が鬼になってしまって……結局救うことが出来なかったの」
「え…!?」
「だけど、妹や今まで助けることの出来なかった鬼にされた人の無念を忘れたくない。今この時も鬼にされて苦しんでる人を助けたいの」

あまり相手が強すぎる鬼だと、話をする隙がないんだけどね。と凛が困ったように笑う。
こいつは──本気なんだ。
ただ綺麗事を言ってるだけじゃない。身内が、妹が鬼にされて助けることが出来ず…それを嘆くだけではなく妹や無理矢理鬼にされてしまった人を忘れずに、今も苦しんでる鬼を救おうとしてる。
思い出されるのは、鬼にされてしまった母ちゃんと殺された弟や妹の姿。母ちゃんだって殺したくなかったはずだ。さぞかし無念だっただろう。そしてそれは兄ちゃんも……

「!?」

その時、凄まじい音がして建物が揺れる。そして突然降って湧いたように現れた鬼の気配に俺と凛は顔を見合わせて現場へと駆けつけるのだった。

もっと話したいと思った




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