刀鍛治編 弐


翌日、炭治郎は蜜璃ちゃんの言っていた武器を探しに出ていき、私は負傷をしてしまった鉄東さんのお見舞いに行くことにした。

「斎藤殿!此度はご足労をおかけして誠に申し訳ない…!」

相変わらずお侍さんのような喋り方をする鉄東さんは思ったよりも元気そうで、怪我もほとんど完治している。そこで私の刀はやっぱり自分に打たせてほしいと頼み込んできたので願ってもない申し出だと私はそれを了承した。今までもずっと鉄東さんの刀で戦ってきたのだ。完成までに少し時間がかかるから、それまではこの日輪刀を持っていてほしいと代わりの日輪刀を渡されたので私はそれを腰に差して「無理はしないでくださいね」と言ってその場を後にした。

「あっ」

そしてその帰り道、私はある人物を発見した。

「不死川玄弥!」
「!」

私に名前を呼ばれて不死川玄弥が振り返り、そしてすごい勢いで私から顔を逸らす。何!?
というか、この人こんなに大きかったっけ?炭治郎達とここまで体格に差はなかったと思うし成長期だったのかもしれない。

「久し振りだね!元気にしてた?昨日は炭治郎と温泉で会ったって聞いてたから私も会いたいと思ってたんだ!」

不死川玄弥は何も言わず私が顔を覗き込もうとするとすすす、と背を向けてしまう。うっ、もしかして嫌われているのだろうか?
でも、私は同期である不死川玄弥に会えて嬉しい。それに聞きたいこともあったんだ。

「不死川実弥さんと苗字が同じだけどもしかして兄弟なの?私、実弥さんにはお世話になったから今度お礼を──」

そう言うと不死川玄弥はくるりと私の方を振り返り両肩に手を置いてくる。突然のことに驚いているけど、不死川玄弥がとても真剣な表情をしていたから私も真剣に彼の言葉を聞こうと思った。

「……兄貴に会ったのか?」

あ、やっぱりお兄ちゃんだったんだ実弥さん。
どこか面倒見もいいし、私を通して誰かを見ているような気がする時もあったからそうなのかなって思ってたけど、あの時はそんな話してる暇もないくらい鍛錬一筋だったからなぁ。言われてみれば実弥さんと不死川玄弥は顔立ちも少し似ている気がする。

「うん。えっと、ややこしいから玄弥って呼ぶね?」
「あ、ああ…それは構わないけど…その、兄貴は、どうだった…?」
「どうだった…?」

って、どう答えれば?
質問の意図は分からないけど、玄弥はとても悲しそうな表情を浮かべている。実弥さんと喧嘩でもしてしまったのだろうか。だけど申し訳ないことに、実弥さんから玄弥のことは聞いたことがないから玄弥の欲しがる答えは言ってあげられないだろう。

「えっと、厳しかったけど優しかったよ」
「そ、そうか…」
「実弥さんと喧嘩でもしてるの?」
「……そんなんじゃ、ねえよ…」

だけど、そんな深刻そうな顔をしてるんだから何かはあったのだろう。
…それは実弥さんと玄弥の問題で、私が下手に首を突っ込んでいいことではない。だから私は敢えて、玄弥を奮い立たせることにした。

「じゃあ、実弥さんに会うためにも強くならないとね」
「え?」
「ほら実弥さんって柱だから忙しいよね?私も育手の人のおかげで少しだけ稽古を付けてもらえただけで、その人の伝がなければお目にもかかれなかったと思うの。でも強くなったら一緒に戦えることもあるかもしれないでしょ?」
「………」
「その時に足手纏いにならないように…そうだ!良かったらここにいる間一緒に鍛錬しようよ!」
「え!?お、お前と…!?」

玄弥が突然顔を真っ赤にさせて汗を沢山流す。むっ、私だって一応何回も修羅場を乗り越えてきたんだから少しは役に立てるはずだ。
それに一人で鍛錬をするのも捗るが、二人で鍛錬をすると思わぬ相乗効果を生むことがあるのを私は知っている。だから、うん!頑張ろう玄弥!

「あ、ごめん遅れちゃったけど私は斎藤凛。凛って呼んでね、玄弥」

そう言って手を差し出すと玄弥はおずおずと、何故かまた私と目を合わせずにその手を握ってくれた。
……いやまあいいけどさ?玄弥、なんでこんなに手汗かいてるの…?

不思議な玄弥




[ 43/68 ]




×