探しもの編 陸


さてさて。
心も決まったし、思い切り泣いたのですっきりしたのはいいものの私は明日どんな顔で皆に会えばいいんだろう?

「別に普通に会えばいいだろう?」
「いや、恥ずかしい…!あんな、誰かの前で思い切り泣くなんて生まれて初めてだから…!」

あの後、私が大泣きをしたせいで伊之助は盛大に慌てふためくし、善逸もアオイも何故か私につられて泣くし、カナヲはどうしたらいいか分からず顔を真っ青にするし、きよちゃんとすみちゃんとなほちゃんは慌てふためいて私に手持ちのお菓子を全部渡してくるしと本当に騒然としたのだ。
そんな皆の様子に、泣き止んだものの顔を上げるかどうか悩んでいると炭治郎が「凛が落ち着くまでとりあえず俺と禰豆子が側にいるよ」と言ってくれたので悲惨な顔は炭治郎にしか見られずに済んだのだけど…

「凛が泣けて良かった」
「え?」
「溜め込んじゃうよりも、表に出してしまった方が良いんだよ」
「…炭治郎」
「俺が受け止めるから、いつでも泣いていいんだぞ?凛」


……炭治郎は優しい。
きっと、誰にでも優しいんだ。だって炭治郎は出会った時からずっと優しいから。
その優しさに甘えて、沢山良くしてもらった。……いやつまりですね!

「もう!炭治郎!そう言うこと言ってるとね、そのうちすっ、好きになっちゃうからやめて!」
「え?」

言ってやった!言ってやったぞ!
ずっと思ってたんだ私は!炭治郎はすぐに人のことを女の子扱いしたり、なんだか口説き文句のようなことをさらりと言うからこっちは気が気じゃないわけ!

「だからこれを機に、勘違いするようなことは言わないで──」
「そのうち、なのか?」
「っ、へ?」

え、何その返事は。

「じゃあ、ちゃんと好きになってもらえるように頑張らなきゃなぁ」

にっこりと。
炭治郎が弾けんばかりの笑顔で言う。
は、へ?何言ってるの?

「凛」
「は、はい!?」

炭治郎が私の手をぎゅ、と握る。
え、私手汗凄いんだけど、どうしよう…!?

「俺も、美琴さんに言われて自覚したばかりなんだ。だけど俺は、凛のことが…」

美琴!?美琴と何を話したの炭治郎は!?
駄目だ、自分の心臓の音がうるさすぎて何も聞こえないし考えられない。待て待て、まだ、その、早くない!?何が!?何が早いの!?自分で自分が分からない…!

「むーっ!」
「わ!」
「禰豆子!」

夜になったのを感じ取った禰豆子ちゃんが一目散に私の元へとやってきて甘えてくる。どうやらずっと出てきたかったようで、頭をすりすりと擦り付けてくる禰豆子ちゃんは信じられないくらい可愛くて、その頭を撫でてあげると嬉しそうに笑ってくれる。

「ね、禰豆子ぉ…」
「む?」

出鼻を挫かれたようで珍しく落ち込んだ素振りを見せる炭治郎に思わず吹き出してしまうと、炭治郎もそんな私を見てははっ、と笑い声をあげる。

「ねえ炭治郎」
「なんだ?」
「美琴は…助けられなかったけど…私はやっぱり禰豆子ちゃんも、鬼にされた人も、人間に戻すことを諦めたくないの」

鬼だって、元は人間だった。
それは私も炭治郎も痛いほど分かっている。
襲いかかられ、命を賭けた戦いでは助けるなんて生易しいことを言っていられないことも痛感している。
だけど、大切な人が鬼になってしまった人はこんなにも苦しく悲しい。そんな人を救えることが出来たらって、やっぱり思ってしまうんだ。

「鬼は元々、人間なんだから…」

人間のままでいられるかどうかは、運次第なんだ。だって、美琴も禰豆子ちゃんも鬼になりたかったわけじゃない。当たり前だと思っている日常はほんの一瞬で壊れてしまう可能性だってある。それこそ、私や炭治郎…仲間の皆が鬼になってしまう可能性だって、十分あり得る。

「炭治郎は、もし私が鬼になったら斬ってくれる?」

そう問うと、炭治郎は笑ってくれた。

「俺も、鬼にされた人を人間に戻すことを諦めない。禰豆子は必ず人間に戻すし…凛がもし鬼になっても俺が必ず助けるよ」

嘘偽りのない笑顔で炭治郎が言ってくれる。
炭治郎と一緒なら、きっと何も怖くない。今握ってくれているこの手を、ずっと離してほしくないな……なんて。
そんなことを考えているとさっきまでのことを思い出して顔に熱が溜まっていくのが分かるし炭治郎もどんどん顔を赤くしてく。

「……凛、その…凄い匂いがしてるぞ…?」
「え!?く、臭い!?」
「違う!そ、そうじゃなくて…!」

炭治郎は花の蜜のような匂いがだな…!なんて訳わからないことを言うし、禰豆子ちゃんは構ってほしくて私と炭治郎の間をごろごろしだすし、──本当に楽しくて仕方がない時間を過ごすのだった。


***


「ダイジョウブ?」
「い、伊之助…!なんで片言なの!?もう大丈夫だよ、ごめんね心配かけて…」
「……ガハハハ!そうだろうと思ったぜ!この泣き虫女がよォ!」

次の日の朝から私の部屋へは昨日の私の様子を心配してくれた面々が訪れていた。
伊之助は恐る恐る私に片言で話をかけてきたけれど、どうやら私の返答で安心したのかいつもの調子を取り戻した。

「本当に大丈夫?わ、私に出来ることがあったらなんでも言ってね…!」
「大丈夫だよアオイ、こうやって声をかけてもらえるだけでも本当に元気が出るの!ありがとう」
「良かった…本当に、心配したんだから」

アオイが優しい表情を浮かべてくれる。
いつも心配をかけてしまうのが申し訳ない。だけど、蝶屋敷に帰ってきてアオイの姿を見つけると本当に安心するんだよ。アオイがいてくれるだけでこんなにも心強いんだ。

「凛さん!これはかぶき揚げです!」
「これはつぶ饅頭です!」
「これはおはぎです!」
「わあ!沢山ありがとう!」

いっぱい食べてくださいね!ときよちゃん達は本当に沢山のお見舞い品を持ってきてくれる。いつも癒される三人娘。…だけど私のことを食いしん坊か何かだと思ってるのかな?そんなところも可愛らしいけど。

「カナヲちゃんは今朝任務に出ちゃったけど、凛のことをよろしくって心配してたよ」
「善逸、わざわざありがとう」

カナヲにもかなり心配をかけてしまった気がする。顔を真っ青にしていたし…あとで手紙を書こう。

「でも良かった、元気になったみたいで!ほんと、勘弁してくれよな〜凛に泣かれると俺まで悲しくなるわけ!」
「あはは、ごめんね。善逸も泣いてくれてたもんね」
「そ!お前が泣くと俺も泣くの!でも泣きたかったらいつでも泣いて良いんだぞ凛。なんなら俺の胸を貸してやるからさ!」
「善逸!それは俺の役目だ!」

善逸の軽口に炭治郎が真面目に返答する。
え?と善逸は目を丸くしてるし、アオイも口に手を当てて目をキラキラさせているし、三人娘も同じような反応をしている。ま、待て待て!

「え、何?炭治郎ついに自覚したの?」
「ああ!最近な!善逸は気付いていたのか?」
「気付いてましたとも!?うわー!炭治郎が!大人の階段を登っちゃうー!!」
「ちょ、や、やめて!まだ!そういうのじゃないから!」

きゃー!と三人娘は楽しそうな声をあげるし伊之助は「なんの話だ?」と状況が分かってないしアオイは今度詳しく教えてね!と興味津々だし、あれ?逃げ場がなくないか?

「凛」

炭治郎が私の名前を優しく呼ぶ。
……逃げる必要なんて、ないんだけどね?


一人になってしまったと嘆いていた私の周りには今も沢山の人で溢れていて、辛いことも悲しいこともあったけれど皆に出会えて本当に良かったと心から思っている。
美琴や禰豆子ちゃんのように鬼にされた人。
そして身内を鬼にされてしまった人のためにも、私は鬼を人間に戻す方法を最後まで絶対に探し続ける。
その時、隣にいてほしい人も出来たけど……相手があまりにも真っ直ぐすぎてお姉ちゃんまだ現実が受け入れられません…。
というか美琴?炭治郎と一体何を話したの…!?
いつかそんな話が出来る日が来るのかなと思いながら、私は今日も暖かい笑顔の中で過ごすのだった。

諦めないよ




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