幕間 参ノ肆


今日も今日とて私は炭治郎のヒノカミ神楽を見てはその美しさに目を奪われた。
どうしてこんなに惹かれてるのかは分からないけど、私はヒノカミ神楽の舞がとても好きだ。そして私が暇さえあれば炭治郎の神楽を見るようになってから、善逸も伊之助も炭治郎の神楽を見学するようになった。

「ちょ、ちょっと緊張するぞ」

なんて最初の頃は言っていたけど、それにも慣れたのか炭治郎は沢山汗を流しながらも日に日に洗練されたヒノカミ神楽を舞うようになっていた。

「私、神楽だけならもう舞える気がする」

休憩をしていた炭治郎にそう声をかけると炭治郎は目を輝かせて私に詰め寄ってきた。

「本当か!?俺は父さんの神楽しか見たことがなかったから是非舞ってみてほしい!」
「え、で、でも。本当に神楽だけだよ?型には出来ないよ?」
「俺も舞えるぜ!!」

伊之助もずっと見てきたヒノカミ神楽を「こうだろう!」と舞いだす。個々は合っている舞もあったけれど少しチグハグで。だけど楽しそうに舞う伊之助に私達は自然と笑顔になる。

「もし分からなかったら俺が教えるから、凛も舞ってみてくれないか?」
「んー、じゃあ少しだけ…」

少しだけ緊張するけど、ずっと見てきた炭治郎の神楽の真似をしてみる。あんなに美しい神楽を再現出来ている気はしないけど、実は、ちょっとだけ憧れて一人で隠れて舞ってみたこともあったのだ。
一つずつの神楽を思い出して、丁寧に。炭治郎のように型を繰り出すわけではないので力は入れずに舞を進めて、そして神楽が一巡したところで動きを止めてちらり、と炭治郎の方を見ると目をキラキラと輝かせて私のほうへ駆け寄ってきた。

「凛!凄いぞ!ちゃんと舞えている!凄く綺麗だった!」
「ほ、ほんと?」
「ああ!…父さん以外で神楽を最初から最後まで舞ってくれたのは凛が初めてだ。本当に嬉しい!」

そう言って炭治郎が興奮気味に私の手をとってぶんぶんと振る。
嬉しい。私もあんなに美しい神楽を舞うことだけは出来るんだ。ふと、炭治郎にずっと思っていた疑問を口にする。

「そういえば炭治郎。たまに最後にやってるあれは神楽じゃないの?」
「え?最後って?」
「えっと、こういう……」

私が炭治郎に尋ねようとすると伊之助がうおー!と突然雄叫びをあげて元気よく立ち上がった。

「おい!紋逸!俺達もヒノカミカグラを出来るように特訓するぞ!」
「は!?なんで俺まで!?俺は見る専門でいいよぉ…」
「伊之助!善逸まで…!嬉しいぞ!俺もしっかり教えるからな!」
「嘘でしょ!?」

炭治郎が本当に嬉しそうに目を輝かせるので善逸からはええぇ…と言いながらも断りきれない雰囲気が出ている。皆でヒノカミ神楽を舞えたらきっと楽しいと思うので私も炭治郎を応援するように後ろから声援を送ると、炭治郎は善逸の両肩を掴んで満面の笑みを浮かべた。

「きっと舞えるようになったら禰豆子も喜んでくれると思うぞ!」

その言葉に善逸はキリッ!といつもより格好良い顔をしてみせた。

「やらせて頂きます!」

こうして私達は炭治郎からも教えてもらいヒノカミ神楽の舞を舞えるようになり、私も善逸も伊之助もこの神楽が思ったよりも体に馴染むことに驚いた。
ちなみに禰豆子ちゃんに舞えるようになった神楽を見せたら炭治郎が言っていたように物凄く喜んでくれたのだが、禰豆子ちゃんはずっと私にばかり抱きついていたので何故か善逸に「恨めしい!」と言われる羽目になるのだった。


***


凛が、善逸が、伊之助が。そして禰豆子も真似をするように神楽を舞ってくれる。笑いあいながら、時には神楽を間違えながら、皆で楽しそうに舞ってくれているんだ。

『にいちゃん!次はこうだろー!』
『違うよ!私、覚えてるもん!』


それは、俺がまだ神楽を覚えている時の懐かしく優しい気持ちを思い出させた。
俺が上手く舞えると父さんも母さんも嬉しそうにしてくれて、竹雄と花子は自分の方がお互いより神楽を覚えているとよく言い合いしてて、六太を抱っこした禰豆子がそれを宥めて、実は茂が一番ちゃんと覚えてて…

神楽を真剣に舞っている時は体力が続かなくて辛いこともあったけど、いつも皆に笑顔が溢れてたんだ。この神楽は俺にとっては本当に特別で、大切で。

「あー!伊之助だから次はこうだって!」
「あぁん!?紋一が違うんだろうが!」
「二人とも違いまーす!次はこれだよ」

凛の舞いに禰豆子がむんっ!と嬉しそうに頷くと善逸と伊之助もその舞いを真似してぎこちなく、だけど楽しそうに舞ってくれる。それが俺は──

「え!?なんで炭治郎泣いてんの!?」

善逸の声にはっとする。俺はいつの間にか皆の姿を見て涙を流していた。

「ご、ごめん!もしかして間違ってた…!?」
「おおお、俺も!ちゃんと覚えるから泣くんじゃねぇ!」

凛も伊之助も慌てて俺に詰め寄ってくるので、俺はすぐに腕で涙を拭って言葉を口にしようとすると禰豆子が俺に抱きついてきた。

「むっ」

まるで禰豆子に俺の気持ちが伝わってるみたいで、それも嬉しくてまたしてもぽろ、と涙が溢れると三人はうわあぁ!と慌てて俺と禰豆子に抱きついてきた。

「炭治郎ー!ちゃんと神楽舞えるようになるからね!」
「俺様が一番に舞ってやるから安心しやがれ!」
「泣かないでよぉ炭治郎ー!お、俺まで…うっ、ぐす…」

三人の気持ちがこんなにも嬉しい。俺は本当に良い友人達に恵まれた。失ったものは確かにある。だけど、俺は今。確かに幸せを感じている。

「凛、善逸、伊之助」

ぎゅう、と出来る限り手を伸ばして禰豆子を含めた四人を思い切り抱きしめる。

「大好きだ!」

皆に会えて、本当に良かった。

大切な神楽と友人




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