幕間 参ノ参


今更なんだけどさ。俺はずっと気になってたの。
凛やカナヲちゃんの隊服ってどうなってるの?
その、鬼ごっこの時とかもひらひらしてるわけですよ。二人とも素早く逃げるからあまり意識したことはないんだけど、あれってその。……見えないのかなと心配になるわけで。

「炭治郎はさぁ、どう思う?」
「え?何がだ?」

俺の隣で刀の手入れをしている炭治郎に声をかければ炭治郎は首を傾げる。それもそのはずだ。俺は今しがた思ったことを声に出してはいないのだから。

「凛の隊服。ひらひらしてて気にならない?」
「……善逸、いやらしい匂いがするぞ」
「ごめんなさいね!?俺だって男だからさぁ…ていうか!炭治郎だってちょっとやらしー音立ててるじゃん!」
「うっ…!」

こういう時、耳や鼻の良い俺たちに嘘は通用しない。そもそも炭治郎は嘘を吐くのが驚くほど下手だから隠そうとしても無駄なんだけどね。このむっつりめ。

「似合ってて可愛いと思うけどさ、足とか見えちゃうとつい目で追っちゃうんだよね」
「……まあ、その気持ちは…分からなくもないけど…」
「で。あれって捲れたらやっぱり、…見えちゃうのかな?」
「善逸!破廉恥だぞ!」

顔を赤くさせて刀を鞘に仕舞いながら炭治郎が言う。いやいや、お前こそなんて音させてるんだよ。
俺達だって男だし、そう言うの気になるよなぁ。
だけど、もし同じ隊服のカナヲちゃんに聞いてみたらカナヲちゃんどころか最終的にしのぶさんにまで怒られる気がしてならない。だったらやっぱり、凛に聞いたほうが教えてくれる気もするんだよね。

「おう、元気そうだなお前ら」
「宇髄さん、こんにちは!」

俺達に声をかけてきたのは宇髄さんで、炭治郎が元気良く挨拶をしたので俺は軽くどうも。と炭治郎に続いた。
宇髄さんは蝶屋敷に定期検診でちょこちょこ訪れるため俺達と顔を合わせる時も少なくはない。そうだ、この人なら何か知ってるんじゃないか?なんか、そういうことに興味ありそうじゃん?偏見だけど。

「宇髄さん、聞きたい事があるんですけど」
「? なんだ改まって」
「あのですね」


***


善逸は何故か至極まともに宇髄さんにさっき俺に聞いたことを尋ねている。その、凛の隊服の中身がどうなっているかと…。
確かに、俺だって凛の隊服は俺達と違って女の子らしくて可愛らしいなと思っていた。だが、その!断じて!やましい気持ちで見ていたかと言えば、そんなことはないのだが…鍛錬や鬼ごっこの最中に捲り上がりそうになるそれを見るとどうしても目を逸らしてしまっていたのも事実だ。第一、嫁入り前の女の子があんなひらひらとした穿き物を穿いているのがやはりいけないと──

「なんだ、そんなことか」
「宇髄さんは知ってるんですか?」
「いや知らねえな。凛の隊服捲ってみるか」
「だ、駄目ですよ!?」

何を言っているんだ宇髄さんは!駄目に決まっているだろうそんなことは!
そんな俺の様子を見て宇髄さんは楽しそうに笑っているし、善逸はやれやれと両手を広げている。な、なんなんだ!?俺は間違ってないだろう!

「あれ?宇髄さんこんにちは。皆で何を話してるの?」

いや、嘘だろう!?なんでこの状況でこんなにも都合よく凛が現れるんだ!?
宇髄さんがにやにやと笑いながら空いている手をわしゃわしゃと開閉する。……なんだか、それすらいやらしい手つきに見えてしまう。

「凛!」
「え?なに?」

俺は着ていた羽織を脱いで凛の腰に巻き付け、そのまま凛の腕を引っ張って「失礼します!」と宇髄さんと善逸に言い残してその場を後にした。

「ははっ、おもしれーの」
「あんまり炭治郎のこと虐めんでくださいよ」

善逸達がそんな会話をしていてことを俺は知らない。


***


いや、どういう状況なのこれは?
何故か私は炭治郎の羽織を腰に巻いて、その炭治郎に引っ張られて部屋まで戻ってきてしまった。
久々に宇髄さんが蝶屋敷に訪れていたから皆で話でもしようと思ったんだけど…

「炭治郎、どうしたの?」

とりあえずそう聞いてみると炭治郎は慌てて手を離してごめん!と私に謝ってきた。

「その…もしかして宇髄さんか善逸に用があったのか?俺が引っ張ってしまったから…」
「え?ううん、別に用はなかったよ。話そうかなって思っただけ」
「そ、そうか…良かった」

ほっとしたような表情を炭治郎が浮かべるけど何か様子がおかしい。何故か私と目が合わないのだ。

「炭治郎、何か聞きたいことでもあるの?」
「! な、ない、ぞ……」
「はい嘘。炭治郎はすぐ顔に出るんだから嘘つかないの」

うぅ…と炭治郎が目を瞑って黙ってしまう。いや本当にどうしたというのか?黙ったかと思えばどんどん顔を赤くしていく炭治郎に私は全く状況が掴めない。やがて炭治郎は意を決したように口を開いた。

「その!…凛の隊服の下は、…ど、どうなっているんだ?」
「え?」
「……ひらひらして、えっと…気になるんだ…」

またしても目を逸らして炭治郎が顔を真っ赤にする。隊服?この下袴のことだろうか。なんだってこんなものが気になるんだろう。確かに珍しい穿き物ではあるけど。

「えっとね」
「え!?」

ひらり、と。私はその下袴を捲った。この下袴の下には炭治郎達と同じような穿き物が縫い付けられていて、捲れたところで全く問題はない。動きやすいし、とても気に入っているのだけど──

「こんな感じで、炭治郎達のと長さ以外はあまり変わんな──」
「わあああ!何をしてるんだ!は、早く戻してくれ…!」

炭治郎が顔をますます赤くして両手で顔を覆っている。え、そ、そんなに焦ること…?
炭治郎を安心させようとやったことだったが、かえって混乱させてしまったらしい。
すぐに捲っていた下袴を元に戻すと炭治郎は私の両肩に手を置いて真剣な目で私を捉える。

「凛!」
「は、はい!」
「絶っっ対に俺以外の前では下袴を捲らないでくれ!」
「えっと…?」
「お願いだ…!」
「う、うん?分かった…炭治郎以外の前ではやらないね?」


こうして炭治郎は私の下袴の中身が危険ではないことを知るのだったが、それでも気になるものは気になる。とよく分からないことを言い残すのだった。

気が気じゃない




[ 34/68 ]




×