幕間 弐ノ壱


煉獄さんが亡くなった時、私達はひたすら泣いて泣いて、泣き尽くして、そして伊之助に鼓舞されてまた泣いて。あんなに人前で泣いたのは久し振りだったし、炭治郎と伊之助があんなに泣いているのは初めて見た。それほどに、煉獄さんの死は受け入れ難く、動かない煉獄さんが非情なほどにこれが現実だと語っていた。
その後、私達は駆けつけてくれた隠の人達に連れられて、またしても蝶屋敷のお世話になるのだった。

私達の中で最も重傷だったのは炭治郎だ。
お腹の刺し傷はかなり深く、暫く安静にしていなければならないと言われていたのに鍛錬をしたり、屋敷を抜け出したりと炭治郎にしては珍しく言うことを聞かずに今もまさにしのぶさんに怒られてきたところだ。

「お疲れ様」

げっそりとしている炭治郎に声をかけると、炭治郎は眉を下げて苦笑いをする。自分に非があるのは分かっているのだろう。それでも動いていたい、という気持ちも分からなくはない。

「えっと、凛も俺のことを探してくれたんだよな?迷惑をかけてごめん…」
「ううん、それは全然気にしてないけど…どこに行ってたの?」
「煉獄さんの家に…最後の言葉を伝えに行ったんだ」
「…そっか。お疲れ様。でも、本当にまだ無理しちゃ駄目だよ?」

そう言うと炭治郎はやっぱり困ったように笑った。きっと私も人のことを言えないんだと思う。
あの鬼の血鬼術を受けてから、悪夢しか見なくなってしまったのだから。


***


「いや、凛。その顔はやばいでしょ」
「仮にも女の子に向かってやばいって言うなんて酷い善逸」
「せめてもう少し感情込めて怒って!?」

善逸に指摘された通り、私は最近夜寝ることが出来なくなってきた。寝るのが怖い、というのが正直な気持ちだ。どうしても夢を見てしまう。炭治郎達にはそんな様子が見られないから血鬼術の影響、というよりは私の心の問題なのだろう。
この四年間、無理矢理封じ込めた記憶を無理矢理引っ張り出された私はそれをなかなか仕舞い込めずにいた。
その結果、私は善逸に「やばい」と言われるほど目の下に隈を作っている。

「寝れねえ意味が分からねえ!人間動けば疲れて寝るだろ!」
「いやいやいや、誰もがお前みたいに鈍感な訳じゃないから!繊細な人間もいるからね!?」
「うるせえ弱味噌!」
「理不尽!?」

善逸と伊之助の毎度お馴染みの口論からの追いかけっこが始める。いつもの日常は癒される。二人に癒やされながら縁側に座ってそれを眺めていると、診察を終えた炭治郎が私の隣へと腰を降ろした。

「炭治郎。傷はもう大丈夫?」
「うん。明日からは鍛錬をしても良いって」
「良かったね」
「……凛、酷い顔色だぞ?やっぱりまだ眠れてないのか?」
「うーん、あはは。困ったね」

炭治郎に変な気を使わせないように笑ってみせるけれど、炭治郎は眉を顰めて私を心配そうに見つめる。眠れないことよりも、三人に心配をかけてしまうのが嫌だった。さてどうしたものか。

「凛」
「ん?」

炭治郎が自分の膝をぽんぽんと叩いてにっこり笑う。え、何?意図が全然分からないのだけど。

「昔、茂が怖い夢を見た時に禰豆子が膝枕をしてあげたらすぐに寝たんだ。今は昼だから禰豆子は出せないから俺で我慢してくれるか?」
「え?何が?」
「? 膝枕がだぞ?」
「いやいやいや、遠慮します」
「どうしてだ!?」

どうしても何もない。無理だ。大体一応私と炭治郎は男と女なわけで、流石に恥ずかしい。というか炭治郎は恥ずかしくないのか?

「だったら、炭治郎は私の膝枕で寝れる?」
「え!?」
「ほら、嫌でしょ?だから私も…」

思わず言葉が止まってしまう。
私が想像していたよりもずっと、炭治郎が顔を真っ赤にさせていく。な、なに?そんなに変なことでも想像したの…?

「ご、ごめん。嘘、冗談だから、ね?」
「あ、ああ。冗談…なのか?」
「え?」

「なーーに変な音させてんだよ真っ昼間からさぁ!」

伊之助と鬼ごっこをしていた善逸が私と炭治郎の間に割って入ってよく分からないことを言ってくる。ぜぇぜぇと息を乱しながら炭治郎に迫って何かを言っていたが私は伊之助に手を取られて「次は凛だ!俺を捕まえてみろ!」と引っ張り出されたので聞き取ることは出来なかった。


その日の夜は炭治郎にお願いをされ、部屋を抜け出さないでほしいと言われた。夜、寝るのが嫌な私は最近深夜になると部屋を抜け出しては時間を潰していたのだがかえって心配させてしまっていたらしい。
今日は沢山笑って、沢山動いたし同じ部屋には炭治郎と禰豆子ちゃんもいる。もしかしたらゆっくりと眠れるかもしれない。
私は少し期待を抱きながら瞼を閉じるのだった。

あの日が私を離さない




[ 22/68 ]




×