無限列車編 弐


「え?」

気付いた時には汽車に揺られていた。
いや、違う。私は元々汽車に乗っていたのではないか?だったらさっきのは何?私はどうして……

「むー…」

私が辺りを見回していたことに気付いたのか、いつの間にか箱から出てきていた小さい状態の禰豆子ちゃんが私のことを見上げている。少し出血した痕がある。……鬼に攻撃されたのだろうか!?

「禰豆子ちゃん、大丈夫!?」

すぐに出血元を確認するけれど、多分額の辺りに傷を負ったのだろうということしか分からないくらい傷はもう塞がっていた。深手を負ったわけではなさそうなことに安心して禰豆子ちゃんの頭を撫でると嬉しそうに笑ってくれる。
癒される…がそれどころではない。

「何…が起きてるの?」

炭治郎も善逸も伊之助も眠ってしまっていて、煉獄さんは意識はないのに女の子の首を絞めている。状況が把握出来ないけれど、この状況がまずいと言うことだけは分かる。

「…? 縄…?」

自分の手首に縄が巻きつけられ、私の側で眠っている人と繋がれている。よく見たら皆も手首に縄をつけられている。この縄がいけないのだろうか。なら、この縄を斬って──

「ああああああああああ!!!」

突然の絶叫に私も禰豆子ちゃんも驚いて身を屈ませる。刀に手をかけ、戦闘態勢に入るものの声を上げたのは目を覚ました炭治郎だった。
「炭治郎?」と声をかけても聞こえていないのか首に手を当てて肩で息をしている。その様子を心配した禰豆子ちゃんが炭治郎の元へ駆けつけると炭治郎はやっと覚醒したように禰豆子ちゃんと私の姿に気付いた。

「禰豆子!凛!大丈夫か!?」
「むっ!」
「炭治郎こそ、大丈夫?」

汗だくになり、まだ呼吸が整いきっていない炭治郎はそれでも大丈夫だと言う。心配だけど悠長なことも言ってられない。
炭治郎と私は腕の縄が怪しく、炭治郎の嗅覚のおかげで縄と切符に鬼の匂いがするのが分かったため禰豆子ちゃんにお願いしてその全てを燃やしてもらった。
しかし善逸も伊之助も煉獄さんも目を覚まさず、もしかしたら鬼本体を叩かなければならないのかもしれないと考えた私達は鬼を探すために動こうとするも、今回の罠を仕掛けた鬼が巧みに利用した人が私達の前に立ち塞がる。

「ごめん、俺は戦いに行かなきゃならないから」

そう言って炭治郎は武器を手にした人達を一瞬で気絶させる。その際皆「夢の中にいたかった」と口にしていたので私はやっとあれが夢だったと理解して、落胆するしかなかった。

私達に向かってこなかった人は二人。きっと炭治郎と私に繋がれていた人だ。炭治郎のことを暖かい眼差しで見つめていた青年はきっと炭治郎と繋がっていたのだろう。そして、私と繋がっていた青年は──

「く、くるな!」

私のことを認識すると、酷く怯えたように取り乱す。

「お前、頭がおかしいんだよ!なんで、なんで自分のことを慕ってる妹の首を刎ねたんだ!」

ああ、そうか。これはそういう血鬼術だったのか。本当に、余計なことをしてくれる鬼だなぁ。

「しかも、自分の首も躊躇いなく掻っ切って、し、幸せな夢じゃなかったのかよ!なんで、そんな──」

その青年が最後まで言葉を発する前に私は彼の意識を奪うことにした。
青年はそのまま床へと倒れ込んだので、私は一呼吸置いて炭治郎と禰豆子ちゃんのほうへ振り返れば炭治郎はやっぱり予想通りの表情をしていた。

「凛…今のは……?」

炭治郎が困惑しきった顔を私に向ける。
知られたくなかった。誰にも言うつもりはなかった。本当に、余計なことをしてくれたな。

「炭治郎、今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ?」
「……分かった。今は鬼を探そう!」

炭治郎は鬼殺隊士として、乗客のためにも鬼を探すことを選び汽車の扉を開けると凄まじい鬼の空気に体が震えた。炭治郎も良く効く嗅覚で感じ取ったのだろう。鬼がいる。だけど、もっと前の方から気配は感じられた。炭治郎は汽車の上へと移動すると続こうとした私を手で制す。

「禰豆子、凛!上は危ないから下で待っててくれ!皆を起こしてくれ!」

そう言うと炭治郎は鬼の気配がする前の方へと走って行った。炭治郎の言う通り、足場の悪い場所での戦闘は人数を増やすほどに動き辛くなってしまう。それなら私は炭治郎に言われた通り禰豆子ちゃんと他の皆を起こすことに専念しよう。


「お前の仲間に、女がいるだろう?」

私と禰豆子ちゃんが皆を起こそうと必死で行動している時、炭治郎はこの血鬼術をかけた鬼と対峙していた。

「折角幸せな夢を見せてあげたのに、あの女は自分からその幸せな夢を悪夢にしたんだ。驚いたよ、まさか最愛と呼べる妹の首を斬り落とすなんて俺でも予想出来なかった!」

私の知らないところで、私の過去がどんどん暴かれていく。

「でもしょうがないよねぇ。あの女の妹は鬼になってしまって、今でもきっと人を殺してるんだからさぁ」

人の心に土足で踏み込んで





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