無限列車編 壱


「凛、俺達は明日出発しようと思っているんだけど凛はどうするんだ?」

午前の訓練が終わり、休憩していると炭治郎がそう声をかけてくる。
私も今日の診察で治療は最後だったし、十蔵君から任務も言い渡されていない。有難いことにしのぶさんはいつでも蝶屋敷を使っていいと言ってくれたため任務が言い渡されるまでここに留まってもいいかもしれない。

「任務はまだ来てないから、まだここでお世話になろうかな。炭治郎達は任務が来たの?」
「いや、俺は炎柱の煉獄さんに会おうと思って──」
「煉獄さん!?」

その名前に思い切り反応すれば、炭治郎は驚いたように目をぱちくりとさせている。
忘れもしない、煉獄と名乗った彼を。ずっと会いたいと思っていた。会って、お礼を言いたいと。

「炭治郎!私も一緒に行ってもいい?」
「あ、ああ。それは構わないけど…凛は煉獄さんと知り合いなのか?」

知り合い、と言われれば知り合いと言っていいのかどうかは分からない。だけど彼は間違いなく私の、

「命の恩人なの、煉獄さんは」


***


炭治郎に連れられて、私と善逸と伊之助は煉獄さんが訪れるであろう「無限列車」という場所を目指して出発したのだけど、そこで目にしたのは鬼でもなんでもなく。

「なんだあの生き物はー!!」

伊之助がそう叫んでしまうのも無理はない。
なんだあれ、初めて見た。黒くて大きくて…おまけに先端は光っていて眩しい。あれは目なのだろうか?というかこれは生き物なのか?

「この土地の守り神かもしれないだろう」
「ああ、なるほど…いつもお世話になってます」
「いや汽車だって言ってるじゃんか」

どうやら善逸はこれが何か知っているようだ。
これは生き物ではなく、人や荷物も乗せて移動をする乗り物らしい。
勿論一般の人も多く乗車しているため、政府公認の組織ではない私達が刀を持っているところを目撃されるのはまずく、刀を背中に隠して行動をすることにした。
炭治郎の話ではこの「無限列車」という乗り物に乗れば煉獄さんに会えるということなので善逸がこの乗り物に乗るための切符を買ってきてくれて、私達は無事無限列車に乗り込むことが出来た。

「善逸は物知りなんだね」
「なになに、惚れ直しちゃった?でも俺には禰豆子ちゃんがいるからなぁ…」
「大丈夫、元々惚れてないから」
「容赦ないね!?」

そんな話をしながら歩いていると、伊之助は初めての列車に興奮しきっていて至る所に飛びついたりするのを善逸が嗜めていた。善逸は普段の騒がしい姿で勘違いされることも多いが、常識があってしっかりしている。ただ、自分の許容量を越えた恐怖に立ち会うと心のままに怖い、嫌だと泣き叫ぶだけで、逃げたりはしない。そんな善逸に伊之助も気付いているのだろう。出会いこそ最悪だったものの、今このように仲良くしているのを見ると私まで嬉しくなってしまう。

「ふふ」
「? なに、炭治郎」
「凛から凄く優しい匂いがしているから」
「え、私から?」
「うん。俺の大好きな匂いだ」
「……あ、そう…」

そのうち炭治郎には物申そう。
私はその言葉になんの意味もこもってないことは分かっているけれど、相手が相手なら勘違いさせるぞと。

「顔とかちゃんとわかるのか?」
「派手な髪の人だったし、匂いも覚えているから。だいぶ近づいて…」

「うまい!」

炭治郎と善逸の会話を遮るかのように突然聞こえてきた大きすぎる賞賛の声は、間違いなく四年前に聞いた彼の声だった。


***


俺は煉獄さんの元へ駆けつけて、善逸と伊之助を紹介した。煉獄さんはとても声の大きい人だけど良い人で、善逸と伊之助を真っ直ぐ見て確認してくれる。そして、凛の姿を見た時煉獄さんは彼女を思い出したように言葉を発した。

「君は!そうか!無事鬼殺隊士になれたのだな!」
「はい、斎藤凛です!煉獄さんが柱だなんて知りませんでした。あの時は本当にありがとうございました」
「あの時は俺も柱ではなかったからな!時に斎藤少女!彼女は見つかったのか?」

その言葉に凛が気まずそうな表情を作り、悲しい匂いをさせる。
そういえば、凛は何故鬼殺隊士になったのだろう。俺のことばかり語ってしまって、俺は凛が何故鬼殺隊士になったのかを聞いたことがなかった。彼女とは一体誰のことだろう。その人を探すために凛は鬼殺隊士になったのだろうか。

「いえ、まだ……」
「そうか!早く見つかるといいな!」
「…頑張ります!」

煉獄さんの言葉にやっぱり悲しい匂いをさせたまま凛は返事をして、俺に「待たせてごめんね」と言って善逸と伊之助が座る座席へと移動してしまった。
凛のことも気になるが、今は煉獄さんにヒノカミ神楽のことを聞くことのほうが大事だ。
俺は煉獄さんに促されるまま隣の席に座ってヒノカミ神楽のことを煉獄さんに聞いたけれど、返事は知らん!とのことで。
その後も様々な事を教えてくれたが、最後は継子になるといい!鍛えてあげよう!と話が逸れてしまったが彼が悪い人ではないことは十分に分かった。

煉獄さんはこの汽車に鬼が出ると俺達に伝える。
善逸は泣き叫び、煉獄さんは落ち着いた様子のままこの汽車で四十人以上の人が行方不明になり、数名の剣士が消息を絶ったと俺達に伝えた。それはかなりの惨状で、強い鬼がいるということ。

「切符…拝見…致します……」

そんな中、車掌さんが切符を拝見すると俺達の元へ訪れた。汽車に乗る際に善逸が購入してくれた切符。これに切り込みを入れるそうだ。
俺は、車掌さんに切符を手渡した。

俺はまだ何も知らない




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