幕間 壱ノ参


今日は天気が良い。鍛錬の前に、少し庭を散歩しようかなと伸びをして立ち上がり私は庭へと繰り出した。

「あ」

目に入ってきたのは多くの洗濯物を一人で干しているアオイだ。アオイは私と同じくらいの年齢なのに本当にしっかりしている。彼女がてきぱきと動いてくれるから、しのぶさんも安心して家を空けることが出来るのだろう。
私はアオイの元へと近寄り、洗濯物を手に取ってそれをアオイに渡す。

「おはようアオイ、手伝うよ」
「おはよう凛。一人で出来るから大丈夫よ」

アオイは最初こそ私のことを凛さん、と呼び敬語を使ってきたけれど話していくうちに打ち解けて今ではこのように砕けた話し方をしてくれている。それが私は嬉しくって、そのまま気持ちを伝えるとアオイは照れたように顔を赤くして「…そう」と言ってくれたのはとても印象深い。可愛らしい子だ。

「二人でやった方が早いでしょ?」
「ふふ、じゃあお願いしてもいい?」
「もちろん!」
「…ねえ、凛」

洗濯物を干す手を止めて、アオイが声をかけてくるので私が何?と返すとアオイは少し悩んだ後、口を開いた。

「戦いに行くの、怖くないの?」
「え?」
「私は、怖くて…戦いの場に行くことが出来なくなったの。凛もカナヲもしのぶ様も、私と同じ女の身でありながらちゃんと戦いに行っているのに」

ぎゅう、とアオイが洗濯物を握りしめる。
彼女はそんな自分のことが許せないのだろう。でも私にとっては。

「でも、ここに帰って来るとアオイやなほちゃん、きよちゃん、すみちゃんが笑って迎えてくれるでしょ?」
「え?」
「だから怖くても、帰って来れる場所も待っていてくれる人もいるから頑張れるんだよ。大丈夫!アオイの分まで私が戦うから」

だから怪我した時はお手柔らかにね?と笑えばアオイは目を見開いた後、ふふっと吹き出した。

「炭治郎さんと同じことを言うのね、凛も」

アオイはそう嬉しそうに笑って、二人で洗濯物を干すことを再開した。とても上機嫌なアオイを見るとこっちまで嬉しくなってしまう。全然気にしなくて良いのに。アオイ達の存在に私達はとても助けられているのだから。

洗濯物を干し終わると「良いものがあるから持ってくる」と私を縁側に残してその場を後にした。
本当に気持ちの良い天気で、心までぽかぽかする。日向ぼっこをしていると縁側にある人物が現れた。それは──

「カナヲ!」

私に名を呼ばれてカナヲがこちらを見る。いつも通りにこり、と可愛らしく笑うと何事もなかったように蝶と戯れ始めるカナヲはとても綺麗で、まるで絵を見ているような錯覚に陥る。
あの笑顔も可愛いけど、もっと色んな表情も見てみたいな。善逸に腕相撲で勝てなかった時、確かにカナヲは少し眉間に眉を寄せてて不満そうにしていて。あんな風にもっと感情を表に出せればいいのにな。

「凛、おまたせ…あ、カナヲ!おはよう」

戻ってきたアオイがカナヲに声をかけるとやっぱりカナヲは可愛らしく微笑むだけだったが、アオイは慣れているのか気にも留めずそのままカナヲに話をかける。

「しのぶ様から好きな時に食べてと言われたカステラを持ってきたの。皆で食べましょ」

ほら、カナヲも。とアオイが呼ぶとカナヲは素直に私達のところへとやってくる。
アオイがカステラを切り分けてくれるのを見ながら、カナヲはずっと口をモゴモゴさせている。なんだろう?何か言いたいことがあるのかな。

「はい、これは凛の分」
「ありがとう、アオイ」

アオイがお皿に二切れのカステラを乗せて私に渡してくれる。そしてカナヲと自分のお皿にも二切れずつのカステラを切り分けて、私とアオイがいただきますと手を合わせて声に出せば、カナヲも手を合わせてカステラを口に含んだ。

(え)

自覚はないのかもしれないが、カナヲが…かなり嬉しそうな顔をしている。一口頬張るごとにいつもは表情をあまり変えないカナヲの表情から「美味しい」と聞こえてくるようで、それがまた可愛らしい。カステラ好きなのかな。
私も一つ口に含むと甘くて美味しい。だけど、あんなに幸せそうに食べてると…

「カナヲ、私の分も食べない?」

ついもっと食べさせたくなってしまう。
その言葉にカナヲが驚いたように目を見開く。わあ、また新しい表情だ。
本当に貰っていいのか、どうするべきか。
困ったように、だけど口をモゴモゴさせてカナヲは目を泳がせている。多分貰えるのなら貰いたいのだろう。カナヲはきっと、自分の意思を主張するのが苦手なんだと思う。

「お腹いっぱいでさ。食べてくれると嬉しいな」

そう言うとカナヲは少し悩んだ後、私のカステラを受け取ってくれた。ちょっと強引だったかな。もう少し私と仲良くなってからの方がこういうのも気兼ねなく受け取ってもらえたのかもしれない。

「………ありがとう」

小さな声で、だけど確かにカナヲが私にそう言った。

「……え?」
「凛?どうしたの」
「わ、私!カナヲに初めて喋ってもらえた…」

そう言って喜んでいると、アオイはそんな私とカナヲを交互に見て楽しそうに笑い、カナヲは少し恥ずかしそうにカステラを頬張っていた。


神崎アオイと栗花落カナヲ。
私が鬼殺隊士になってから出来た女の子の友人は可愛くて強くてしっかりした子達だった。

可愛い二人の友人




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