幕間 壱ノ壱


中庭で炭治郎が型の稽古をしている。
人の型を見るのは好きだ。呼吸には様々な癖や特性があってどれだけ見ていても飽きない。
炭治郎と伊之助の型はここに来てからよく見せてもらっている。善逸はなかなか見せてくれないし、夜にこっそり一人で稽古をしているらしいから今度こっそり見てみよう。だけど善逸は耳が良いからすぐに見つかってしまうかもしれないな。
そんなことを考えながら炭治郎の型を見学していると、炭治郎が少し呼吸を整えた後、また型を繰り出したのだが。

「え?」

それは今までの型ではなかった。
あんな型、見たことがない。
目を奪われる美しさに瞬きすら忘れる。
これは私が初めて見る型だ。水の呼吸じゃない。綺麗、ずっと見ていたい──
そう思って眺めていると、炭治郎が突然その場に転がるように倒れたので私は慌てて炭治郎の元へ駆け付けた。

「炭治郎!大丈夫!?」

炭治郎は蹲ったまま、ハァハァと苦しそうに呼吸を繰り返す。炭治郎の背中に手を当ててぽんぽん、と優しく撫でることしか出来ない。そのうち回復の呼吸を使って息が整ってきた炭治郎が一度深く息を吸い込んで、それを吐き出した。

「凛、ありがとう…」
「もう大丈夫?」
「うん、……やっぱり、まだまだ修行不足だな」

はぁ、と炭治郎は溜息をつく。
炭治郎が鍛錬であんなに息を乱すのは初めて見た。もしかして、さっきの型が原因なのだろうか?

「炭治郎、さっきの型は…新しい型?」
「ん?ああ、これはヒノカミ神楽といって俺の家に代々伝わる神楽なんだ」
「神楽…」
「うん。どうしてこの神楽で技を出せたのかは分からないけど…俺はこの神楽で生き残ることが出来たんだ。だけど、ヒノカミ神楽は強力すぎるのか全く使いこなせなくて…格好悪いところを見せちゃったな」

炭治郎が気まずそうに苦笑いを浮かべる。
格好悪い?そんなこと、ちっともない。

「凄く綺麗だった」
「え?」
「ヒノカミ神楽。あんなに綺麗な型…ううん、あんなに綺麗な舞、私初めて見たよ。もっとずっと見ていたいくらい綺麗で、目が離せなかった」
「そ、そうかな…?俺はまだ父さんみたいに上手くは舞えないから…」
「そうなの?私にとっては綺麗で、力強くて…うん。今まで見た型の中で一番目を奪われたよ」

まるで一つ一つの動きを、目に焼けつけたいと思うほどにその神楽は美しかった。
流れるような型、炭治郎が途中で倒れてしまったからもしかしたらもっと色々な型があるのかもしれない。私はその全部をいつの日か見てみたいと本気で思っている。

「…ありがとう、凛」
「え、何が?」
「この神楽は父さんから引き継いだ俺の…俺にとって、宝物のように大切にしていた神楽なんだ。だから、そんな風に言ってもらえて本当に嬉しい。ありがとう」
「ううん、私のほうこそ。こんな素敵な神楽を見せてくれてありがとう。ねえ、炭治郎」
「なんだ?」
「これからもヒノカミ神楽の型、見学してもいい?」

そう言うと炭治郎は勿論!と満面の笑みを浮かべてくれた。
ヒノカミ神楽。まるで神様みたいに綺麗な舞。
私はそれ以降、時間さえ合えば炭治郎のヒノカミ神楽の訓練を見学するのであった。

神様みたいだと思った




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