機能回復訓練 壱


目が覚めた時、私は伊之助と善逸と同じ部屋で治療をされ寝かされていた。
思い切り起き上がると体中に激痛が走り、私の面倒を見てくれていたであろう女の子に「安静になさってください!」と怒られてしまった。
彼女は神崎アオイと名乗ってくれた。私は今回の怪我人の中では重傷に入るので大人しくしていてくださいと念を押されてしまった。
左腕はひびが入っているそうだ。痛い。

「五回!?五回も飲むの?一日に!?」

アオイの話では善逸は最も重傷で治療が上手くいって良かった、と零すほどだったほどだ。だけど当の本人はあの通り、いつも通り元気そうにしているので安心してしまう。
どちらかというと伊之助のほうが元気がない。話をかけても「ゴメンネ」と酷い声で答えるのであまり喋らせるのも可哀想かと思って深く聞けずにいた。

そして一番心配だった炭治郎は隠と呼ばれる人に背負われて、無事私達と合流することが出来た。
自分も重傷だというのに、善逸の心配をして伊之助の心配をして。炭治郎らしい。

「凛!大丈夫か…!?」
「全然へーき。それより炭治郎…禰豆子ちゃんは?」

私がそう言うと別の隠の人が禰豆子ちゃんの入った箱を持ってきてくれる。炭治郎がそれを優しげに見つめるので禰豆子ちゃんが無事なことも分かり私はやっと心の底から安堵することが出来た。

「凛、本当にありがとう」
「え?」
「凛がいなかったら、禰豆子は……」
「炭治郎も禰豆子ちゃんも…善逸も伊之助も無事で本当に良かった」

私がそう言うと善逸は「凛〜!」と泣きついてくるし、伊之助は未だ「ゴメンネ」と繰り返すので猪頭の上からわしゃわしゃとちょっと乱暴に頭を撫で、炭治郎は満面の笑顔で

「凛も無事で本当に良かった!」

と笑ってくれたので私もその笑顔につられて笑うのだった。


***


「禰豆子。善逸も伊之助も…凛も。皆無事だったよ」

禰豆子が置かれている部屋に移動して、俺は禰豆子に語りかける。
今回の戦いで沢山力を使ってくれた禰豆子はきっと眠ってしまっているだろう。それでも良かった。ただ、自分の気持ちを口に出したかっただけだから。

「…凛、左腕にひびが入ってたみたいなんだ。凄く痛かったと思う。それでも、禰豆子のことを迷わず守ってくれたな」

鬼殺隊士として、俺と禰豆子の存在は異端なのは分かっていた。そして、この前の柱合会議でもそれを嫌というほど思い知らされた。
もし、お館様が禰豆子を殺せと言ったら禰豆子は殺されていただろう。ここはそういう組織だと、理解はしていた。鬼を滅する組織。その組織の一員なのに鬼を連れている俺。おかしいのは俺のほうだと分かっていても禰豆子を見捨てることは絶対に出来ない。俺にとって禰豆子は最後の家族で、今の俺にとって全てと言っても過言でもないのだから。

『この子は、鬼だけど…炭治郎の妹なんです!お願い、殺さないで!最後の家族なの…!』

彼女の姿を思い出して、涙が出てしまう。それを隠すように俺は膝を抱えてそこに顔を埋めた。

禰豆子を庇ってくれたあの時、凛は酷く痛そうに顔を歪めていた。それでも禰豆子のために体を張って、もしかしたら隊律違反で凛まで斬られていたかもしれない。
だけど、凛は禰豆子を守ってくれた。
思えば初めて会ったあの日から、凛は禰豆子を一度も鬼だと軽蔑したことがない。

『炭治郎の妹も絶対に元に戻れるって信じてる。一緒に方法を探そ!』
『禰豆子ちゃんって言うんだね。よろしくね』
『炭治郎、禰豆子ちゃんは凄い子だよ』

鬼にされてしまった禰豆子。そんな禰豆子に凛は俺の妹としてずっと接してくれている。それが嬉しくて堪らない。善逸も伊之助も、禰豆子に優しくしてくれて……本当なら柱の人達の態度が正しいのに、俺と巡り合ってくれた人達はこんなにも俺達に優しい。

「……幸せだな、禰豆子」

そう言うとカリカリ、と箱を引っ掻く音が聞こえてきた。

優しい人達に囲まれて




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