後悔のないように | ナノ



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「炭治郎ー!俺を守ってくれよおぉ!」
「善逸は男の子でしょ!私を守ってよ炭治郎おぉ!」

そう言って抱きついてくる善逸に凛。俺にとってはこれがいつもの光景だった。

凛は初めて会った時からよく笑いよく泣きとても騒がしく、善逸と揃うと本当に凄まじかった。弟や妹を思い出してしまうほど騒がしくて、だけどいつも素直に自分の思いを口に出す凛と一緒にいるのは楽だったし楽しかった。

「私、炭治郎のこと好きだよ」

だから、凛にそう言われた時は本当に驚いた。いつもの騒がしさもなく凛の匂いは確かに恋慕を含んでいて。そんな風に自分のことを見てくれていたのかと、本当に驚いたんだ。

「……ごめん、禰豆子を人間に戻すまで、そういうことを考えれない」

それは確かに本心だった。
俺は禰豆子を人間に戻すために生きていると言っても過言ではない。そんな俺が恋愛なんかに現を抜かして良いわけがない。だから凛の想いは受け取れない。
俺の言葉に凛は一瞬だけ酷く悲しい匂いをさせて、すぐにいつも通りの笑顔を作る。

「そっかぁ、ごめんね、言える時に言わないと後悔するのやだからさぁ。気にしないで!」

ほらそんな顔しないで!と凛は俺の背中をバシッと叩く。
凛の気持ちを受け取らず落ち込むのは凛のはずなのに、何故か俺のほうが酷く落ち込んでしまい凛に気を使わせてしまったのだった。


それから凛は本当にいつも通りだった。
俺に好きだと言ったのはもしかしたら夢だったのかもしれない、と思うほど凛はいつも通りで。ただ、凛が俺に抱きつくことはなくなった。元々俺達は男女でいくら仲が良いとはいえあんなに抱きついたりしていたのはおかしかったのだろう。頭では分かっていてもどうしてか寂しくて。
そして今まではそんなに気にしていなかったのに凛が他の男の隊士と話していると嫌な気持ちになるようになった。凛は友人が多い。そんなのは分かりきっていたことなのに、笑って触って。楽しそうにしてる凛を見るのが嫌だったし、そんな風に考えてしまう自分が凄く嫌だった。



「あれ、炭治郎日向ぼっこ?」

縁側に座っていると凛がいつものように話をかけてくれる。うん、とあまり愛想も良く返せないのに凛はじゃあ私も!とやっぱりいつも通り接してくれる。

「実はね、お団子もらってきちゃった!」

そう言って凛が好物である団子を一つ俺に差し出してくる。受け取って頬張ると甘くて美味しい。凛もご機嫌でそれを頬張っていた。

「うーん、やっぱり甘いものは良いねぇ」
「…あまり食べすぎても良くないけどな」
「うっ!運動してるから、問題なーし!」

そう言って笑う凛に自然と頬が緩む。
凛に告白されてから、彼女は俺に今まで通り接してくれるのに俺はいつも通り接することが出来ていなかった気がする。そんな俺にも凛はずっとこうやって接してくれたなんて、凛は優しいな。

ふと、もし凛が誰かと恋仲になってしまったらこうやって過ごすことも出来なくなるのだろうかと、…それは凄く嫌だなという気持ちに気付く。
思えば。凛が他の女の隊士と話している時は全く気にならないのに、男の隊士と楽しそうに話していると気になってしょうがなかった。
俺に笑いかけてくれると嬉しいし、抱きついてくれないようになってからは寂しかった。

……ああ、そうか。禰豆子を人間に戻したいという気持ちは嘘ではない。俺の一番大切な思いであることには変わりはない。
だけど、俺はそれを「理由」にして凛の真摯な気持ちから逃げたんだ。受け取る勇気が咄嗟に出なくて、禰豆子を言い訳にして。…俺は駄目な兄ちゃんだな。禰豆子、いつか叱ってくれ。

「凛、俺……」
「んー?」

やっと自分の気持ちに気付けた。
遅くなってごめん、断られても良い。だから伝えようと──

「カアァ!任務!任務!」

したところで、凛の鎹鴉がやってきた。

「わ、びっくり!まだお団子を食べてるでしょ!」
「急務!急務!急ゲ!」
「んもー、分かったよ! 炭治郎、行ってくるねー!」
「あ、ああ…気をつけて、凛!」

そう言うと凛はいつものように笑顔で手を振って鎹鴉と共に姿を消した。

(…帰ってきたら、ちゃんと伝えよう)

そんな俺の願いは叶うことはなかった。
凛はこの任務で命を落としたのだから。








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