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あの日から私達は一緒にお昼を食べるようになったし、都合さえ合えば帰りも一緒に帰るようになった。梅ちゃんに本当に大丈夫?嫌だったら断るよと聞いたけれど「別にいいわよ」と特にヘソを曲げて言ってる感じでもなかったので現在に至る。 不思議な感じがする。なんだか昔から知ってたみたいに話が弾むし炭治郎と善逸と一緒に居ると落ち着く。梅ちゃんも初日こそ警戒をしていたのかあまり喋らなかったけれど今は普通に2人と話している。 出会いこそ強烈なものだったけれど、炭治郎と善逸に会えて良かったなぁと思えてしまうくらい毎日が楽しいのだ。
「ちょっと、アンタ。ジュース買ってきなさいよ」 「えぇ!?購買行ってきたんじゃないのかよぉ…」
善逸と知り合ってから梅ちゃんはいきいきしてる気すらする。うん、梅ちゃんがお使いをお願いするのは結構気を許してる相手だと思ってるので。 とはいえこの前も善逸がお使いに行っていたしそう毎回行かせるのも可哀想だよなぁ。
「梅ちゃん、私が行ってくるよ」 「え? コイツに行かせればいいのに」 「私もジュース飲みたくなっちゃったし、ついでついで!」 「じゃあ俺も一緒に行くよ」
そう言って立ち上がった私に続いて炭治郎も立ち上がる。私の顔を見て微笑む炭治郎は本当にイケメンだし格好良いと思う。謎なのはどうして私なんかにそんな愛おしげな顔を向けるのかということだ。
「炭治郎もジュース飲みたくなっちゃった?」 「そうだな。それに凛と一緒にいたいから」 「はーー!またすぐそうやって好感度上げるんだから!」
結論を言うと私は炭治郎の告白を受け入れなかった。理由としては「まだ炭治郎のことをよく知らないから」と断ったのだけど、そう言うと炭治郎は「じゃあ、俺のことを知ってからもう一度返事をしてくれないか?」と言ってきたのだ。ゲームのキャラかよ、ときめいたわ。
自慢じゃないけど私はモテないし告白なんて炭治郎にされるまで一度もされたことがなかった。 梅ちゃんに振られた奴に「じゃあお前でもいいから付き合う?」なんて軽く言われたことはあるけど私にだけ告白してきたのは正真正銘炭治郎が初めてだったのだ。 そりゃあ罰ゲームやドッキリだと思うでしょ。でも炭治郎はいつも真っ直ぐ気持ちをぶつけてくれるから聞きにくくて、善逸にこっそりと「炭治郎の告白ってドッキリ?」と聞いたら全否定されてしまったから……多分違うと信じてるのだけど。
「じゃ、一緒に行こっか。梅ちゃん、善逸、行ってくるねー!」
そう言うと2人は手を振ってくれて、炭治郎は嬉しそうに私の隣を歩く。 ジュースを買いに行く間も炭治郎はずっと幸せそうな顔をして私と話してくれた。
***
それは偶然だった。 梅ちゃんのお兄ちゃんのバイトが休みになったらしく、今日はお兄ちゃんと帰るわ。と梅ちゃんが先に帰ってしまったため私は炭治郎と善逸を迎えに行こうと彼らの教室まで向かうと中から話し声が聞こえてきた。
「竈門お前なんで斎藤さんなんだよ。どう考えても謝花さんだろ」
ぴた、と足が止まる。 竈門という名前が聞こえたからきっと炭治郎は教室にいるのだと思うのだけど、話題に自分と梅ちゃんの名前も出ていたため咄嗟に足を止めて身を隠してしまう。
「謝花さん可愛いよなぁ、一般レベルであれはなかなかいないぞ」 「あの冷たい目線も堪らないよな。ほんと、どう考えても謝花さんだろ」
どうやら私と梅ちゃん、どっちのほうが可愛いかと何とも不毛な話をしているようだ。 いやだって私もそう思うもん!梅ちゃんは本当にお人形さんかと思うくらい可愛いし、だけど格好良いし私も大好きだ。だからこそ、その友人達の意見に悲しいことに全く同意見なんだよなぁ。
中学の頃から梅ちゃんはモテモテで、学年問わずいつも愛の告白を受けていた。毎回毎回鬱陶しそうにする梅ちゃんを見てると美人なのも大変だな、気の毒だぁとよく思っていたっけ。 そしていつも梅ちゃんの隣にいた私はよく梅ちゃんと比べられた。いや、比べる相手間違ってない? 梅ちゃんのことが好きな男子には姫と召使いだの、美女と野獣だの散々失礼なことも言われたっけ。誰が野獣だ!食っちまうぞー!なんて流してたけどちょっとだけショックだったんだ。そんな私に気付いてか梅ちゃんが怒ってくれたのは嬉しかったなぁ。やっぱり梅ちゃんは私にとって可愛くて強くて憧れの女の子なんだ。
でも炭治郎は。炭治郎だけは最初から私に告白してきたんだよね。全然分からない。もしかしたら炭治郎も梅ちゃんは可愛いから私で妥協したとか?それとも私を通して梅ちゃんと仲良くなりたいとか?まあ別に良いけど、慣れてるし。
「俺は凛のほうが可愛いと思うし、凛以外は好きにならないよ」
その言葉に、息の吸い方すら忘れた。
「え、まじで言ってんの?謝花さんだぞ?あいつ多分この学校で一番美人って言われてるのに?」 「うん。俺は凛が好きだから」 「マジ惚れじゃん!頑張れよ竈門!そこまで惚れてんなら俺達も本気で応援するわ!」 「ありがとう!」
楽しそうな声が聞こえる。だけど、私はそれどころじゃない。 初めて。炭治郎は本当に初めて、私を「好きな相手」として見てくれているんだと実感する。 嘘でしょ。だってあんなに格好良くて優しくて、実は女子達からも人気のある炭治郎が、本当に私を? 今まではなんとなく、炭治郎が自分のことを本気で好きなはずないと思い込んでいた。だけど、もしかしたら。炭治郎は本当に私のことが好き、なのかも…!?
「あれ、凛?どしたのこんなとこで」 「ひっ!」
いつの間にか私の目の前に善逸の姿があり声をかけられる。その声で私達に気付いた炭治郎が嬉しそうな顔で私達を見つけた。
「凛、善逸! じゃ、俺は行くな」 「おお!竈門、頑張れよー!」 「ありがとう!」
笑顔で走り寄ってくる炭治郎を直視出来ない。 あれ、心臓が苦しい?なに?音うるさっ、何!?
「凛!迎えに来てくれたのか、嬉しいよ」 「あ、あああのですね?今日はう、梅ちゃが、先に帰って…」 「そうか! なら今日は3人で帰ろう!」
ニコッと炭治郎が笑顔で言う。 私は自慢じゃないけどモテないし、告白だってその、炭治郎からされるまでされたことだってなかった。そして、私も誰かを好きになったことなんてなかったのだ。
(心臓うるさっ…)
だから、恋に落ちる瞬間とか、好きだって感情も知らない。知らないんだよほんと。 でももしかしたら、これってそうなのかなぁ……
未知の感覚に戸惑いながらも、3人で帰る道のりはやっぱりいつも通り楽しかった。
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