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俺と炭治郎はこの時代では「謝花梅」と名乗った元上弦の陸に連れられて校舎裏へと連れてこられた。勿論周りに人はいない。え、嘘すぎでしょ?怖すぎるんですけど。 凛と仲良くしているところを見ると前世の記憶はないのかもしれないと炭治郎とは話していたけど。 彼女は振り返り腕を組んだまま口を開いた。
「アンタ達覚えてるんでしょ」
その言葉に俺も炭治郎もごくりと息を鳴らす。 いやいやいやいや、今の台詞完璧に覚えてるよね!?そして俺達に記憶があることにも気付いてる。…炭治郎があんだけ凛に執心なら記憶持ちならそりゃあ気付くか。 それにしても気まずい。気まずすぎる。だって俺達は前世では生死をかけて戦い、俺に至っては伊之助と共に目の前の彼女の首を斬っているのだ。いくら前世のこととはいえ覚えているのだから気まずすぎるってものだ。しかも目の前の張本人も覚えてるって言うんだから正直もう逃げ出したい。
「謝花も覚えてるのか?」 「覚えてるわ。アンタ達に殺されたこともね」
炭治郎の問いにさらりと返事を返す。 なんて言ったらいいんだろう。殺してごめんなんて、そんな馬鹿げたことを言うつもりはいくら俺でもないし、そもそもあの状況では彼女達の首を斬らなければ俺達が死んでいた。だから、あの選択が間違っていたとは思わない。思わないけど、まさか記憶を残したままこの時代でも再会するとは思ってなかったからさぁ…
「俺達を恨んでいるのか?」
炭治郎の言葉に彼女は睨むように目線を向けた後、その目を伏せた。
「別に恨んでないわよ。アタシはまたお兄ちゃんの妹に産まれたし、今は楽しいしね」 「そうか! またお兄さんの妹になれたんだな、良かった!」
炭治郎が嬉しそうな声で言うと彼女は少しだけ面食らった顔をする。 お兄さんとは宇髄さんと炭治郎が相手をしてた滅茶苦茶強いもう1人の鬼だろう。俺はよく分からないけど、今の話の流れだと彼女はお兄さんのことがすごく好きで、炭治郎もなんとなくそれを察していたってとこか。
「まあね。でも、凛はアタシのこともアンタ達のことも覚えてないから」
彼女の言葉に俺は先ほどのことを思い出す。 見た目も言動も何もかも前世のままの凛。だけど本当に俺達のこと、そして前世のことを何一つ覚えていなかった凛。仕方がないことだとはいえ伊之助の時も禰豆子ちゃんの時も寂しくなかったと言えば嘘になる。 まして、炭治郎は凛のことをそれこそこの時代に生まれてからずっと探してきたんだ。…凛に記憶がないって分かって一体どう思ったんだろう。
「うん、分かってる。それでも俺は凛が好きだから、もう後悔したくないから。好きだって何回でも伝えるよ」
炭治郎が優しい顔をして、優しい声で言う。 この時代では昔みたいに耳は良くないけれど、きっと今の炭治郎からはあの時と同じで泣きたくなるくらい優しい音がしてるんだろうなと確信が持てる。それほどに、優しい声だったんだ。
「…ふーん、好きにすれば?ただ、凛に前世のこと吹き込むのはやめてよね」 「そんなことはしないよ」 「あっそ。じゃあそれだけだから」
そう言って彼女はくるりと俺達に背を向けてしまう。 前世の記憶を持っている彼女。凛と一緒にいる限りこれからも俺達と関わることは必然的に多くなるだろう。 だったら、自己満足かもしれないけど。これだけは言っておきたかった。
「う、梅ちゃん!」
って呼んでも良かったかなぁ!? 俺の声に梅ちゃんが足を止めて不機嫌そうに振り返る。頑張れ俺、逃げるな俺!
「何よ」
あ、梅ちゃん呼び一応セーフなんだ… ってそんなことより!俺は深呼吸を一度して口を開いた。
「あの、前世で首を斬ったのを間違っていたとは思ってないよ。でも、それでも。……首を斬っちゃってごめん」
俺の言葉に梅ちゃんが驚いたように目を見開く。 そして少しだけ笑って俺に言葉をかける。
「別に気にしてないわよ。アタシだってあの時はアンタ達のこと殺そうと思ってたし。…ああそれとアンタ、」
梅ちゃんは炭治郎ではなく俺を指さす。 な、なに?
「この時代でもやっぱり不細工ね」
そう笑いながら言って梅ちゃんはその場を去って行った。
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