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おいおい我妻知ってるか?竈門のやつプロポーズしたらしいぞ。 なんて親友の噂で持ちきりなんだけど嘘すぎじゃない?
俺と炭治郎は親友とか腐れ縁とか、もうそんなものじゃないくらい長い付き合いだ。なんてったって2人とも前世の記憶を持っていたんだからな。俺と炭治郎が再会したのは中学の頃だったけれど、2人とも前世の記憶は物心がついた時からあったんだ。 だけど、炭治郎に会うまで前世の記憶があるなんて誰にも会えなかったから俺はこれが前世の記憶だと確信出来なかったのだが、そんな時に炭治郎と再会しお互い脇目も触れずにぼろぼろに泣いたのは今でも忘れられない。
そして炭治郎はこの時代でずっとある1人を探していたんだ。
「善逸!」
噂の張本人が俺の声を大きな声で呼んで走ってくる。
「炭治郎!おま、何やってんだよ!噂で持ちきりだぞ!?」 「善逸!俺、やっと凛を見つけたんだ…!」 「まじかよ!? え、良かったな…良かったな、炭治郎!」
炭治郎はこの時代でずっと「斎藤凛」を探していた。俺達が会えたのだって奇跡なのに同じ時代に凛も生まれ変わってるなんてことあるのかな。と俺は半信半疑だったけれどやっぱり炭治郎は凄いな。炭治郎の諦めない心が身を結んだのだ。 あ、プロポーズってそういうことか。
「ああ! その、良かったんだけど…」 「? 何か問題があるのか」
炭治郎の嬉しそうな顔が曇る。
「いや、凛は記憶がないみたいで」
…なるほど。
「あーまあ、…伊之助や禰豆子ちゃんにも記憶なかったもんな。俺たちのほうが珍しいんじゃないか?」
俺達は俺達以外に記憶を持っている人に出会ったことがない。探せばいるのかもしれないけれど、あの時代はあまりにも別れが多く悲しいことも少なくはなかったから記憶を持っていないのならそっちの方が幸せだと思う。 伊之助も禰豆子ちゃんも何も変わらずあの時代の2人のままだったけれど、記憶は何も残っていなかった。そしてそれは、炭治郎の探し求めた凛もらしい。
「うん。だけど、記憶がなくても凛は凛だったよ。会えて本当に嬉しい」
炭治郎が本当に嬉しそうな顔をする。 そんな顔をされると良かったなぁとしか思えない。本当に良かったな、炭治郎。
「それと実はもう一つあって…」 「え? まだ何かあるの?」 「その、凛と一緒にいたのが……」 「? 誰だったんだよ」
カナヲちゃん?アオイちゃん?と聞けば炭治郎は首を横に振る。じゃあ一体誰なんだ?俺の知ってる子なのかな。
「…上弦の陸だった」
***
「いやもう完璧に上弦の陸だったじゃん!?」 「だからそう言っただろ?」
善逸がイヤアアアアと奇声をあげる。 うるさいぞ善逸!と叱咤しながらも俺も昼食の時のことを思い出す。 俺の提案を受け入れてくれた2人はあの後屋上に来てくれて一緒に昼食を食べた。凛は記憶は全くないようだっけれど前世の時と何も変わらず元気で明るく素直で…俺は改めて凛を見つけられたことを喜んだ。 ただ、凛と一緒にいたのは前世で俺達が倒した上弦の陸の1人だったのだ。あの戦闘には凛も参加していたというのにこの時代では誰がどう見ても2人は仲睦まじい様子だった。
「でも、記憶があったらあんなに仲良く出来ないんじゃないか?」 「うーん…、確かにそうかもしれんけど…でも怖かったよ俺!」 「まあ、歓迎はされてなかった気もするけど…だけど明日からも一緒に昼食を食べてくれるって言ってたぞ?」 「そうそれな!?お前何勝手に決めてるんだよ!」
そう言って善逸が俺の頭に噛み付いてくる。痛い! あの後、明日からも一緒に昼食を食べないかと誘えば凛は二つ返事でいいよ!と言ってくれたがその後「梅ちゃんも良ければだけど」と謝花さんの方をちらりと見た。謝花さんは特に表情を変えるわけでもなく別にいいけど。と言ってくれたので明日からも一緒に昼食を食べることになったのだが…
「うーん分からない。俺も善逸も、この時代では前みたいに鼻や耳が効かないからな…」 「うう…昔はあの耳に悩まされたこともあったけれど、今は物凄く恋しくなるよぉ…」
そんな話をしてると入り口の方が少しざわつく。 何だろうと目を向けるとそこに立っていた人物がどんどん俺たちの方へ向かって歩いてくるし善逸の顔はそれはもう真っ青に染まっていく。
「ちょっと顔貸しなさいよ」
まさに話題の人物が腕を組んで俺達の目の前で立ち止まりそう言い放つのだった。
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