後悔のないように | ナノ



2/14



「モテたい」

ある日の帰り道、凛は真剣な顔でアタシにそんなどうでもいいことを言ってきた。

「無理じゃない?」
「無慈悲!いやあ確かに私もそう思うけどさ、もうちょっとで私達も高校生になるわけでしょ?そしたら格好良い彼氏とか出来るかなーなんて夢も見ちゃうわけで」

凛が白い息を吐きながら興奮気味で言う。
アタシ達はもう一月もしないうちに高校生とやらになる。別に高校なんて行かなくても良かったんだけど、お兄ちゃんがどうせなら行っておけって言うから。で、どうせ行くなら凛と同じ高校にしようと思ったら案外偏差値の高い高校を選ぶから大変だったわよ。しかも理由が制服が可愛い、だからね。やっぱりアホだと思うわ凛は。

「梅ちゃんはモテモテだからなー、すぐに格好良い彼氏とか出来ちゃいそう」
「お兄ちゃん以上の男なんていないわよ」
「確かにー!」

お兄さん素敵だもんね、と嘘偽りのない笑顔で凛が言う。アタシはお兄ちゃんのことが大好きだ。前世で何度生まれ変わってもお兄ちゃんの妹になると誓い、ちゃんとこの時代でもお兄ちゃんの妹として生まれてきた。 
そんなお兄ちゃんのことを悪く言う奴は絶対に許さないけど、凛は初めてお兄ちゃんに紹介した時から優しいね、とか良いお兄さんだね。とアタシの自慢のお兄ちゃんを褒めてくれた。それがどれだけ嬉しかったか、きっと凛は気付いてすらいないのよ、…それが凛にとっては普通だから。

「でも、梅ちゃんに彼氏が出来たらお祝いするからね!」

眩しいくらいの笑顔で凛が言う。アタシは分からない。アンタに彼氏が出来た時、心から祝うことが出来るのか。
だって、アタシからアンタを奪うなんて許せないって思うくらいにはアタシはアンタのことが気に入ってるんだから。


***

昼休みになりお昼ご飯を買うために梅ちゃんと購買へ向かう。今日の私はずっと同じことを考えている。そう、昨日のことだ。
いや確かにモテたいと願いましたが昨日のあれは何?ドラマでも見たことないんだけど。あんなにも大勢の人の前で人生初めての告白というか、プロポーズをされたんですけど。
なにこわい。イケメンだったけど怖いよ誰だあの子。

「モテたじゃない。おめでと」
「冷たぁ!? もっと親身になってよぉ、生まれて初めて告白されたんだよ梅ちゃんぅ!」

興味なし、と言った風な梅ちゃんに涙目で訴えかけるけど流石歴戦の猛者。今まで告白された回数はもう分からないのではくらい告白されてきた梅ちゃんからしたら昨日のアレも日常の風景みたいなものなのかもしれない。
だけど私にとっては初めてなのだ。しかもイケメンだった。そう、イケメンだったのだ!あの、かまどたんじろう?と名乗った彼はそれはもう整った容姿をしていて、私は思ったね。これは罰ゲームかドッキリだと。

「やっぱりドッキリかなぁ」
「なんでそう思うのよ」
「じゃあ罰ゲーム…?」

そう言うと、梅ちゃんは私のおでこにビシッとデコピンをお見舞いする。痛い!地味に痛い!

「な、なに梅ちゃん!」
「アンタはね、不細工じゃないからもっと自信持ちなさいよ」
「え!わ、私もしかして可愛い…?」
「普通」
「褒めるなら最後まで褒めて!?」

「凛!」

名前を呼ばれて振り返るとそこには昨日のイケメンが。

「あ、き、昨日の…!」
「竈門炭治郎だ。炭治郎って呼んでくれ。凛と……えっと」

竈門…炭治郎は梅ちゃんのほうに目を向ける。

「あ、この子は謝花梅ちゃん!私の親友なの」
「謝花……」
「………」

あれ、なんか空気重くない?
っていうか梅ちゃんのことを見てテンションが上がらない男子って初めて見たなぁ。大体皆私のことなんてそっちの気で梅ちゃんに迫るのに。
というか、そういえば?

「えっと。なんか私の名前知ってるみたいだけどまだ名乗ってなかったよね?私は斎藤凛。えーっと、もう呼んでるけど私も凛でいいよ」
「…うん、よろしく。凛、謝花。あとこっちは──」
「いや、た、炭治郎ぉ!ど、どう見ても……!」

炭治郎の後ろに隠れるようにしているのは…不良!?金髪の髪をした男子生徒でなんだかガタガタと震えている。

「こら善逸、失礼だぞ!彼は我妻善逸。俺の親友なんだ」
「ど、どうも…」
「あ、どうもどうも。ご丁寧に…我妻くん?」

ペコリと頭を下げられたので下げ返してそう呼ぶと「俺も善逸でいいよぉ…」とか細い声で言われる。
なんだかよく分からないけど個性的な2人だなぁ。と思っていると梅ちゃんが腕に思い切り抱きついてきた。

「わ!梅ちゃん?」
「ねえもういいでしょ?お腹減ったんだけど」

むすっと不機嫌な顔で梅ちゃんが言う。
確かにあまり話し込んでても昼休みが終わってしまうし、購買のものも売り切れてしまう。

「お昼、まだなのか?」
「うん。今から購買に行こうと思って」
「なら一緒に食べないか?」
「え?」
「え!?」

私の声と善逸の声が重なる。私以上に驚いてない?炭治郎はそんな善逸に慣れているのか、それとも本気で気にしていないのか。にこにこと笑いながら話を続ける。

「俺と善逸はいつも屋上でお昼を食べているんだけど、良かったら…来てくれると嬉しい」

炭治郎は…梅ちゃんではなく私を真っ直ぐと見て優しい微笑みと共に誘ってくる。
うっ、顔が良い。イケメンはこうやって数多の女を落とすのだろうか?
でもなぁ。私には梅ちゃんがいるし、梅ちゃんはあまり初対面の人と仲良くならない。人見知りなのだ。そんな梅ちゃんを無理矢理付き合わすのは申し訳ないし断ろうと顔を上げると梅ちゃんが先に口を開いた。

「いいわよ別に」
「え、いいの?」
「だってアンタ、行きたいんでしょ?」
「う、梅ちゃんーー!!」

優しい!天使!梅ちゃん大好きと抱き付けば鬱陶しいと鼻を摘まれる。うーんいつも通りの対応ありがとうございます!

「ありがとう!じゃあ、待ってるな!」
「はーい、買ったら行くね!」

こうして成り行きとはいえ私達は一緒に昼食を食べることになったのだった。






[back]

×