後悔のないように | ナノ



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やあやあ太陽さん。今日も眩しいくらいに輝いてますね!私はというと今日からなんと!花の女子高生ってやつになるんですよ。
自分で言うのもあれだけどさ、制服って可愛くない?中学の時のセーラー服も可愛かったけど高校からはなんと、ブレザーよ。もうそれだけで大人になった感じするよね?この制服が着たくて受験頑張ったからね、地獄でした!
冬になったらカーディガンとか着て可愛らしさをアピールするのも良いよねえ。何はともあれ青春真っ盛りなわけ!わかる?

「うん、40分待ってるけど来ないね!」

そんな記念すべき入学式の日。中学の頃からの親友と待ち合わせをしているのだけど40分遅刻とはなかなかのもんだ。どう考えても入学式間に合わないし、休んだほうが良くない?これ。
勿論彼女を置いて先に行くことだって出来のだけど、まあその選択肢は私にはない。
親友だから?いやまあ、それもありますけども。

「はー…おはよ。朝早いわねアンタ」
「おはよう梅ちゃん〜!………うわあぁ!!」
「何よ、いつも通りうるさいわね」

親友である謝花梅ちゃんがいつも通り遅れてごめんなんて言うはずもなく欠伸をしながら登場する。
全然構わない。だって、だって……!

「う、梅ちゃ、制服姿……!」
「はぁ?」
「可愛い!!天使!!女神!!」
「知ってるわよ」

ふふん、と私の言葉に上機嫌になる梅ちゃん。可愛すぎませんか?
梅ちゃんの制服姿を誰よりも早く…いや、お兄さんのほうが先か。許す!
まあとにかく早く見たかった私に彼女を置いていくなんて選択肢は最初からなかった。

彼女、謝花梅とは中学からの友達だ。ハッキリ言ってそこらへんの芸能人より梅ちゃんは可愛い、美しい、まさに天使。そんな梅ちゃんと仲良くなれた私はもしかしたら生きている間の運を使い果たしたのかもしれない。
知ったことか!この天使が私の名前を呼んで微笑みかけるんだぞ!?
私は入学式なんてもうどうでもいいと思いスマホで梅ちゃんの初高校制服姿を写メしまくり、当然のように2人で遅刻するのだった。


***


アタシ謝花梅は斎藤凛と腐れ縁で親友で──前世では殺された仲だ。

驚いたわよ流石のアタシだって。まさか自分を殺した忌々しい奴等の中の1人とこの時代で再会するなんて思ってもなかったし、あの時はお互い殺し合っていたから知る由もなかったけど、

「梅ちゃん、焼きそばパン買ってきたよ〜!」

あんな凄い形相でアタシの頚を斬ろうとしてたコイツが、こんな尻尾をぶんぶん振り回した犬っころみたいに無邪気で可愛いなんて思ってもなかったわよ。

斎藤凛には前世の記憶がない。本当に、全くないのだ。梅ちゃん梅ちゃんと私に懐く凛に最初こそウザいとも思っていたし警戒もしていたけど、アタシ従順な犬は好きなの。だからまあ、ハッキリ言って絆されたわけ。だからこそ前世のことを覚えていたら、思い出したらと思うとやっぱり凛の近くにいるのは躊躇われた。

だから確認したのよ。「アタシ昔頚を斬られて死んだのよね」とか「鬼狩りにやられた」とか。少しでも覚えていたら不意にそんなことを言われて反応しない人間はいない。そしたら凛は「う、梅ちゃんの首を!?き、斬る!?」なんて本気で驚いた顔をするから笑っちゃったわよ。アンタ達よ。アタシの頚を斬ったのは。

凛は前世の記憶があると言っても馬鹿にしないし、アタシが冷たく接しても馬鹿みたいに明るく声をかけてくる。アタシはこの時代でもお兄ちゃんさえいれば良かったし、不細工や馬鹿と連むつもりもなかったから学校という場所ではずっと独りだった。別に気にもしてなかったし、偽善で近付いてくる奴はアタシの態度が気に入らないとすぐに去ってアタシのことを悪く言った。
あの頃と、遊郭にいた頃と何も変わらない。結局自分にとって有益な存在じゃなければ人間は人間に優しくしない。だったらアタシだってお前らに優しくする道理はない。そうやって生きてきたのに。

「アタシ、クリームパンが良かったんだけど」
「うぐ、売り切れだったの! でも、焼きそばパンも美味しから!」
「太るからいらないわよ」
「炭水化物のダブルパンチ!」

凛はいつもアタシといると楽しそうに笑う。嫌な顔一つしないで、アタシの頚を必死に斬ろうとしてた凛は今、アタシに屈託のない笑顔を向けるの。

「凛、アンタさ。アタシのこと好き?」
「うん、大好き!」

綺麗な笑顔で凛がそう言う。
……あっそ、と目を逸らすとそんなことも気にせず凛は嬉しそうに笑った。
このまま凛には一生記憶が戻らなければいい。っていうか記憶って戻るものなの?アタシは物心ついた時には全て覚えていて、お兄ちゃんは何も覚えていなかったし今も何も思い出さない。
だったら心配することもないのかも。
前世の記憶なんてないほうが幸せなのかもしれないし、この世界でアタシだけが覚えているのかもしれない。

この時まではそう思っていた。



「凛!!」

昇降口で帰ろうとしていると誰かが凛の名前を呼んだ。
驚いた顔で振り向く凛につられて振り返れば、忘れることなんて絶対にない顔をした男が凛の手を握っている。

「やっと、やっと見つけた…!凛、俺だ!炭治郎だ!覚えているか…!?」

コイツ、お兄ちゃんとアタシを殺した鬼殺隊の餓鬼…!

「え、だ、誰!?はじめ、まして?」

凛は勿論覚えていなかった。この餓鬼はアンタと一緒にアタシ達を殺した仲間だったはずなのに覚えていないのだ。残念だったわね。アンタ達の凛はもういないのよ。分かったらさっさと諦めて凛の手を離しなさいよ。
鬼殺隊の餓鬼は一瞬だけ酷く悲しそうな顔をして、すぐに嬉しそうに微笑む。

「……俺は竈門炭治郎!凛、好きだ!俺と結婚してくれ!」

そして生徒が大勢いる中でそんな馬鹿みたいな告白を大声でするのだった。






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