後悔のないように | ナノ



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先日、久々に梅ちゃんとランチをして高校時代のことが懐かしくなりアルバムを開いた。
私の側にはいつも梅ちゃんと善逸と伊之助と。そして炭治郎の姿があって。あんなにも楽しくて短いと感じた3年間は初めてだった。

「何を見てるんだ?」

はい、とお揃いのマグカップを二つ持って来た炭治郎がそれをテーブルの上へと置いて後ろから私を抱き込むように座る。開いていたアルバムを覗き込むと「ああ、」と嬉しそうな声を出した。

「高校の時のか。懐かしいな」
「炭治郎との出会いも高校だったもんね」

いきなり腕を掴まれ好きだと、結婚してくれと大勢の前で言い放った炭治郎。当時は本当にびっくりしたし絶対に罰ゲームかドッキリだと思ったよ。だけど炭治郎はあの時から今も変わらずずっと私に愛情を注いでくれている。
炭治郎もそんな高校時代を思い出したのか、私の左手に自分の左手の指の一本一本を絡めるように重ねてぎゅ、と握り締める。

「ちゃんと有言実行しただろ?」

そう言ってお互いの薬指に光る指輪を見せつけるように握ったままの左手を私の目の前へと持ってくる。

「私は元々卒業後は働こうと思ってたんだけど、まさか卒業の日に本当にプロポーズされるとは思わなかったよ」

高校を卒業したあの日。
炭治郎は私に指輪を差し出してプロポーズをした。信じられる?まだ皆が帰りきってない学校内でだよ!?しかも善逸と伊之助と梅ちゃんは知ってたみたいでクラッカーは鳴らすわ紙吹雪を投げるわで、周りにいた人皆を巻き込んでのお祝いムードとなったのだ。忘れられるはずがない。人生で一番驚いて、人生で一番の幸せを受け取った日なのだから。
しかもこの指輪。高校生がサッと買えるような物でもなくてそれにも驚いたんだけどね!?

「今思うとこんなに高いものを高校生だった炭治郎から何の疑いもなく貰った自分が無知すぎて怖いよ…」
「それは気にしなくていいんだぞ?あの時のために物心ついてからずっと貯金してたからな!」
「ええ!?自分の稼いだお金なんだから、ちゃんと自分の欲しいものを買いなよ!」

そう振り返って炭治郎の顔を見て言うと、炭治郎は幸せそうに微笑んでちゅ、と触れるだけのキスをしてくる。

「俺は一番欲しいものは手に入れたから」

なんて。これまたドラマの主役が言いそうなことを炭治郎はサラリと言ってしまうのだからタチが悪い。

「そ、そうですか……」

きっと私の顔は今真っ赤なのだろう。だって炭治郎がニコニコとそれはもう嬉しそうな顔をして笑っているのだから。…くそぉ、勝てない…。

ふと。
高校時代と言えばあることも思い出した。

「ねえ、炭治郎」
「ん?」
「炭治郎はさ、結局誰を探してたの?」

私の言葉に炭治郎が不思議そうに首を傾げる。

「誰を、って?」
「炭治郎。誰かに私を重ねてたでしょ?付き合うようになってからはちゃんと私だけを見てくれてたけど。付き合う前!私を通して誰かを見てた気がする!」

まあ今は私の炭治郎なんで誰にもあげませんけどーと言えば炭治郎は少しだけ驚いた顔をして、それはもう優しい表情で私の頭を撫でた。

「…そうだな。じゃあ少しだけ、昔話をしようか」
「なになに。炭治郎の子供の時の話?」
「それよりももっともっと昔の話だよ」


それは遠い遠い昔。
1人の男の子と1人の女の子が叶えられなかった恋のお話。
そしてそれを話し聞くのは、遠い未来で恋が叶った1人の男の子と1人の女の子。













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