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ずっと後悔していたんだ。 物心ついた時から、彼女の姿を探していた。 だから凛を見つけた時、俺はもう後悔しないと決めて思いを伝えたんだ。 ──たとえ、凛に記憶がないと分かっても。
「謝花、ちょっと良いか?」
昼休み。いつもなら屋上で合流するはずの炭治郎と善逸が私達のクラスまで来てくれて一緒に屋上に行こうと誘ってくれた。 嬉しいな、と少し胸を弾ませていると炭治郎が梅ちゃんに向かってそう言う。
「……良いけど」
あれ、これってもしかして? いやでも炭治郎は私に告白してくれて……あれ。
「ごめん凛」
炭治郎が私にそんな言葉を投げかける。 その言葉に少しだけ肩が竦んでしまう。 あ、なるほどね?
「善逸と先に屋上に行っててくれるか?すぐに追いつくよ!」 「…りょうかーい! じゃ、行こっか善逸」
そう言ってあまり炭治郎と梅ちゃんの姿を見ずに教室を出た。こんなのいつものことなのにな。炭治郎もやっぱり…… いつもの光景。いつもの展開。違ったのはちょっとだけ心が苦しかったこと。炭治郎と梅ちゃんは美男美女であまりにもお似合いだった。
***
「で、何?」
竈門に連れられ人が少ない裏庭へとやってくる。 凛のことを無視してアタシだけを呼び出す男なんて話を聞く価値すらないと思ってるけどコイツの目は真剣で、アタシに何か言いたいことがあるんだろう。 昨日言ったことへの返答だろうか。 だけどアタシは間違ったことを言ったとは思わないし、前世のあの子を好きならこの時代の凛にまでその想いを被せるのはやめてほしい。あの子と前世の鬼狩りの凛はアタシにとっては別人なのだから。
「謝花、ありがとう。謝花は優しいな」
大真面目な顔で、竈門が言う。 思いもしなかった言葉に少しだけ面食らいながらもアタシは腕を組んで目の前の男を睨みつける。
「は?前世で殺されかけたのによく言えるわね」 「うん、前世は前世だから。この前謝花に言われて確信したよ。俺は、ちゃんとこの時代の善逸も謝花も好きだし、凛のことが好きなんだ。その心に全く嘘なんてないんだ」
この時代の凛を好きだと、竈門は言う。 それが本当か建前かアタシには知る術がない。だけど、この男達と過ごして目の前の男は確かに凛に対して愛情深い視線をいつも送っていた。 幸せそうで、愛おしくて堪らない。 それはいつからから凛からアンタにも向いていて…
「……あっそ」 「謝花、凛のことを想って言ってくれたんだろ?前世の凛じゃなくて、今の凛を見ろって。…俺が言うことじゃないかもしれないけど、凛の側にいたのが謝花で良かった!」
本当にありがとう!と屈託のない笑顔で竈門は言った。 アタシだって、まさか前世で殺し合ったアンタ達とこんな仲になるなんて思ってなかったわよ。それは間違いなく記憶のない凛のおかげで、…凛の側にいれて良かったのはアタシのほうだ。
「アンタさ、凛のこと幸せにできるわけ?」 「絶対に幸せにする!」
即答でそう答えられては信用するほかないだろう。 アタシはね、あの子のことがお気に入りなの。自分のお気に入りが取られるなんて我慢できない。……だけど、あの子がそれを望むなら…
「もし凛を泣かせたらアタシがアンタを殺すから!」 「ああ。その時は謝花が俺を殺してくれ!」
この竈門炭治郎と言う男は多分嘘をつかないし、つけないのだろう。そんな男がこんなに大真面目に言うのならもうアタシから言えることは何もない。
「じゃ、さっさと屋上に戻るわよ。凛が待ってるんだから」 「善逸もいるぞ!」 「分かってるわよ」
どこか抜けてる返事をしてくる竈門に呆れたように笑ってアタシ達は屋上へ向かうのだった。
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