今日は空気がとても冷たい。だいぶ着込んできたけれどそれでも寒さを感じるし、はぁと息を吐けばそれは白く染まっている。

「あ」

窓の外を見ると雪が降り出していた。やっぱりなぁ、寒い寒いとは思ったけれど雪まで降り出したらいよいよ本番だ。置き傘あったかな、なんて考えながら私は教室へと向かうのだった。



「あれ」

教室へ向かう途中、ある男子生徒の姿が目に入る。一つ歳下の竈門君だ。毎朝善逸に服装チェックをされながらもピアス…というか耳飾りを外してこない、しかし優等生というちょっと変わった子であり、そして何故か学年の違う私や善逸によく懐いていて昼休みはクラスにまで足を運んでくれることもある。人懐っこい彼のことだからクラスにも沢山友達もいるだろうになんでわざわざ私達のクラスまで足を運ぶのだろうと少し不思議に思うが竈門君のことは嫌いじゃない。というかむしろ好きな部類だから別に良いのだけど。

「竈門君、今帰り?」
「あ…斎藤先輩……」

ん?いつもと竈門君の様子が違う。
元気がないように見えるしどことなく顔色も悪い気がする。調子でも悪いんじゃないかと心配になる。

「具合でも悪いの?」
「え?」
「顔色悪いよ」

そう言うと竈門君はいや、その…と言葉を濁す。こんな竈門君の姿初めて見るなぁ。
ふと、窓の外に目をやれば降り出した雪が少しずつ木や地面に積り出している。

「風邪でも引いたのかな。ほら、雪まで降ってきてるし」
「……雪」

竈門君が眉を顰める。とても嫌そうな顔で窓の外を見つめて瞳を揺らすその姿は怒っているようにも見えて。

「雪嫌いなの?」

昔転んだりとかしたのかなぁ。なんて呑気なことを考えていると竈門君の瞳が私を捉える。
え、何その目は。私何かした?

「大切なものを失う時は、いつも雪が降っているんだ」
「え?」
「だから、雪は好きじゃない。…どうしようもなく不安になる」

いつも斎藤先輩!と可愛らしく笑う竈門君と今目の前にいる竈門君は果たして同一人物なのだろうか。どことなく大人びて見えるし、その表情はとても寂しげで。思わず竈門君の手を握ってみるといつもは暖かいその手は冷え切っていた。

「うっわ。手冷た!ずっとここに立ってたの?一緒に帰ろ、帰り道肉まん奢ってあげるからさ」

私がそう言うと竈門君は少し泣きそうな顔をする。よく分からないけど雪が降った日に竈門君は何か大切なものをなくしてしまったのだろう。それは竈門君の心に傷を残して今でも治りきっていないんだ。その傷を治すことは出来ないかもしれないけどさ、ちょっとくらい和らげることは出来たらいいな。

「斎藤先輩……」
「ほらほら、そんな顔しないで。お腹が膨れれば少しは気分も良くなるって」

あ、でも竈門君調子悪いんだっけ。肉まんなんて食べさせたら余計具合悪くなるかな…。そんなことを考えていると軽く握っていた手を強く握り返される。

「竈門君?」
「…どこにも行かないでくれ」

まるで懇願するように竈門君が言う。
いや、行かないけど…?


帰り道、少し落ち着きを取り戻した竈門君はいつもと同じように私と帰り道を歩き奢ると言った肉まんは頑なに「俺も払います!」と言って奢らせてもらえなかった。
ただ一つ、私の家の前に着くまで竈門君は手を離さなかった。私がどこかへ行ってしまわないように。



※前世の記憶の記憶がある炭治郎、ない斎藤先輩






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