※ファンブック2 ネタバレあり。



二週間に一度、私は彼等の元へ足を運ぶ。
共に戦った仲間達が、今でも仲良く幸せそうに暮らしているのを見ると私も嬉しくなってしまう。この二週間に一度の訪問は私にとってもご褒美のようなものなのだ。

「凛!」

私に気付いた彼が嬉しそうに私の名前を呼ぶ。以前は飛ぶように速く走ってきてくれたが今はその面影はなく、少し足を引き摺るように私の元へ向かってくる彼が愛おしくて、少しだけ痛々しくて。私は駆け出して彼の元へと向かった。

「善逸、家で待っててくれて良かったのに」
「俺が早く会いたかったの!」
「足は?痛くないの?」
「全然?」

そう言って善逸は笑顔を向けてくる。
炭治郎からの手紙には善逸の足はあまり状態が良くなく、特に天気の悪い日は辛そうだと記してあったけれど…今日は天気が良いから大丈夫なのかな。
それでも心配なものは心配だ。私はなるべくゆっくり善逸の隣を歩いて、彼等の住む家へと向かうのだった。


***


今日は炭治郎達は炭を売りに町まで降りているらしく、戻ってくるのは夕方くらいになると言われたので私は善逸と縁側でゆっくりと過ごすことにした。
善逸はころころと表情を変えて楽しそうに話を続ける。相変わらず喜怒哀楽の激しい善逸の話は飽きなくて、面白くて笑ってしまう。

「でさ?炭治郎ってば酷いんだよ!俺の書いた小説にここぞとばかりに駄目だしをしてさー!」
「善逸、小説を書いてるの?」
「え、あ、う、うん。まあ、趣味だけど?」
「へー!私も読んでみたい!」

善逸は話上手だ。そんな善逸が書いた小説ならさぞかし面白いのだろう。
だけど善逸は私に対してえ、えーと…と何故か顔を赤らめて要領を得ない言葉を続ける。

「たんじろー!」

そんな時、外から炭治郎を呼ぶ声が聞こえてきた。

「あ、あいつか。凛ちょっと待っててくれる?」
「はーい」

善逸がよいしょ、と立ち上がり声のする方へと向かっていく。やっぱり足が痛いのかな。以前よりも立ち上がる時も歩き方もどこかぎこちない。
心配になりこっそりと善逸の後をつけると、善逸は訪ねてきた少年と話をしていた。

「たんじろーは?」
「炭治郎は今出かけてんの、俺が手伝おうか?」
「えー、ぜんいつはいつも足が痛いってうるさいからやだ!」
「失礼な!これでも頑張ってるんだぞ!」
「でも母ちゃんがぜんいつの足は本当に悪いから無理させちゃダメって言ってたからいい!またなー!」
「はいはい、またね」

善逸は少年に手をひらひらと振って戸を閉める。
私は、今の話に驚きを隠せなかった。
善逸がいつも足が痛いって?本当に悪いから無理させちゃダメって?そんな素振り、私の前では一度もしたことなかったのに。
いつも大丈夫だよって、痛くないよって。笑ってくれていた、のに。

「……凛、何泣きそうな音させてんの」

善逸が私の名前を優しく呼ぶ。
耳の良い善逸には私がついてきたことも、動揺していることも筒抜けなんだ。
善逸には隠し事はできない。…善逸は私に隠し事をするのに。

「善逸、足…痛いの?」
「痛くないよ」
「嘘。いつも痛いって言ってたじゃん。…私には、言えないの?」

そう言うと善逸は困ったように頭を掻く。
善逸に隠し事をされてたのは悲しい。だけどそれ以上に、痛いと言ってもらえないことが悲しかった。もっと頼ってほしいのに、もっと本音を曝け出してほしいのに。私はそんなに…

「……頼り、ないから?」
「違う!違うよ!」
「でも…じゃあなんで?」

私はこんなにも真剣だと言うのに善逸は何故かどんどん顔を真っ赤にさせていく。え、なに。
あーもう!と天井に向かって叫ぶと善逸は私の目の前まで歩いてきてはぁーー、と大きな溜息をついた。

「……好きな子の前では格好をつけていたいんです!」
「………へ?」
「だ、だから…凛の前で、痛いとか、そういう格好悪いことは…言いたくなくて……」

ごにょごにょ、と。最初はあんなにも大きな声だったのにどんどんその音量が下がっていく。耳まで真っ赤にして、涙目になって。
──そんな善逸が、あまりにも愛おしくて。

「…ふふっ」
「あ、笑ったな!?か、格好悪いってやっぱり思ったんだろぉ…!」
「格好悪くなんてないよ」
「ほ、ほんと……?」
「でも、格好悪くてもいいよ」

そう言って善逸の手を握る。へ!?と素っ頓狂な声を上げる善逸が可愛らしい。ああ、本当にもう。

「善逸なら、全部好きだから」

そう言うと善逸は数秒間完璧に止まってしまった後、大量の涙を流し泣き叫びながら「俺もだよぉー!」と私を力一杯抱きしめてきた。
本当に、可愛い人。



「え?私は妖精の国のお姫様なの?」
「そう!そして俺はそんな凛の王子様になるべく鬼を倒して旅をしている勇者で…!」

なんともまあ、変な小説を書いているけど本人が楽しそうに読み聞かせてくれるからいいか。と思い面白いよと言えば善逸はやっぱり嬉しそうに顔を綻ばせていた。
後日遊びに来た時に「炭治郎にまた駄目だしされちゃったよ〜!」と泣きついてきたのはお察しの通りだ。







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