寒い。
最近毎日口にして体を震わせているが、本当に寒すぎやしないか?
自分の隊服を見下ろすがやはりこの隊服は間違っている気がする。流石に胸は曝け出せるようなものではないので前田さんにお願いして皆と同じものに変更してもらったけど何故か下袴はそのままで!と押し切られたせいで私の隊服の下袴は短い。足が曝け出されるこの下袴に疑問を覚えつつも動きやすいしまあいいか…と渋々受け入れているのだけど支給される度に丈がどんどん短くなっていく気がするのは気のせいかな?
最初の頃は膝より少し上だったはずなのに今となっては膝より大分上…しゃがみ込むと太腿が露出してしまうほどだ。しかし甘露寺さんはこの隊服で見事な身のこなしをしているし…うーん。

「………いやいや、動きやすい云々の前に寒い」

お腹が冷えてしまうよ。やっぱり他の隊士と同じように下袴を変えるべきかな。
ガタガタと震えながら歩いていると、曲がり角で元気なあの人に出くわした。

「む!凛か!今日も良い日だな!」
「煉獄さん……こんにちは…」
「どうかしたのか?元気がないようだが」

開口一番、驚くほど大きな声で挨拶をしてくる煉獄さんにはもう慣れた。ふと、煉獄さんの服装を見るとなんともまあ暖かそうだ。色からして暖かい。そして露出されている肌も少ない。やっぱり隊服ってこうであるべきじゃないか?

「さ、寒いんですよぉ…」
「ああ、君は寒がりだからな!」
「煉獄さんは寒くないんですか?」
「うむ!俺は寒さに強いからな!」

はっはっは!と腕を組みながら煉獄さんが寒さなんてものともしないように言う。くそ、狡い。寒がりを舐めないで頂きたい。
私はこの寒さを思い知らせてやろうと煉獄さんの手を両手でぎゅうっ、と握ると煉獄さんは「む!?」と驚いたような声を出した。

「うっわ!煉獄さんの手暖かいですね!?」

その暖かさに私のほうが驚いてしまう。なんだこれ、湯たんぽか?
氷のように冷え切っている手で触って嫌がらせをしてやるつもりだったのに、こんなにも暖かい手を離せるわけがなく感動しながら握っているとははっ、と煉獄さんが笑い声をあげた。

「君の手は冷たいな!」
「いやほんと、手交換してください」
「それは出来ないな!俺の手は俺のものだからな!」

そんな当たり前のことを真面目に言ってしまう煉獄さんにははっ、と笑ってしまう。本当に真っ直ぐな人だなぁ。まるで心の暖かさが手にまで滲み出てるみたいだ。あれ?そうすると私の心は氷のようだってことになるけどそんなことはない。…そんなことはない!
そんな馬鹿なことを考えていると煉獄さんが握られていた手を一度解いて、その両手で私の両手を包み込むように握ってくれる。

「俺の手で良ければいつでも握りにきて良いぞ!」
「本当ですか!?」
「うむ!凛だけだがな!」
「やったー!流石炎柱様ですね!壱の型、湯たんぽ!」

そんな風にふざけると煉獄さんはなんだそれは、と満面の笑みを浮かべる。
ごつごつとした手は硬くて、とても大きくて暖かい。煉獄さんらしいその手に次第に私の手も暖かさを取り戻すのだった。


***


「全くと言って良いほど伝わらん!」
「いやいや、煉獄にしては頑張ったじゃねーか。あいつが鈍感すぎるだけだ」

先程まで俺の手を握っていた凛。小さくて冷え切った手が俺の体温で暖かさを取り戻すのが酷く愛おしくて。俺以外で暖をとってほしくない。そう、俺はあの凛という彼女に恋をしている。
そんな凛は俺によく懐き、警戒心もなく俺に近寄り手を握るのだ。正直言って試されていると思ってしまうのも致し方ないと思うのだが彼女は全くの無意識なのだ。

「愛い!俺は彼女にこんなにも惹かれているのだがどうしたらいいと思う、宇髄!」
「そんなの、口吸いして押し倒せば良いじゃねーか」
「君と俺とでは価値基準が違うようだ!」
「凄え拒否してくるな!?」

そんなことをして、もしも嫌われてしまったら俺は俺を許せない!彼女の気持ちは第一に優先すべきだ。俺の気持ちだけで押し通して良いものではない。
だが、もし彼女が他の男のものになってしまったらと思うと宇髄の言うことも分かる。分かるが、やはり凛の気持ちを無視してそう言った不埒なことは…!

「そろそろ俺の稽古の時間だから行くわ」
「む、そうか!すまないな話に付き合ってもらって」
「それは別に構わないけどよ。煉獄、お前もそろそろ腹括れよ」

そう宇髄に言われ俺はむぅ…と唸りながら俺に手を握られて微笑む凛の姿を思い出しながら自分の手を見つめて気付かないうちに顔を綻ばせるのだった。


***


稽古が終わり、帰路を歩いていると見覚えのある隊士が目に入る。相変わらず短え隊服。あんな隊服を素直に着るのは甘露寺くらいかと思ったらあいつも素直に着てるのだからお笑い草だ。全く、素直な奴っていうのは無条件で応援したくなる。煉獄も、こいつも。

「凛」

名前を呼ぶとその隊士が振り返る。寒そうに白い息を吐きながら「宇髄さん!」と表情を綻ばせるのは煉獄の想い人である凛だ。

「お疲れ様です!こんな時間に珍しいですね?」
「今まで稽古をつけてたからな」
「なるほど!」

そう言って凛は自然に俺の横へと移動をして他愛のない話を振ってくる。こいつはこういう奴だ。気付いた時には相手の懐に入っていて警戒心を解いてしまう。しかも無意識で。煉獄だけではなくそんな凛に絆されている隊士は実は少なくはない。だというのに当の本人は全く気付いていないだからタチが悪いよなぁ。

「それにしても本当に寒いですよねぇ」

はぁ、と自分の両手に息を吐きかけて凛が暖を取っている。寒さで頬や鼻の頭まで赤くしている凛は俺から見ても可愛らしいのだから、こいつに惹かれている者にとってはもはや目に毒だろう。
ふと、悪戯心に凛に話を振ってみた。

「手、暖めてやろうか?」
「え?」

そう言って手を差し出す。
煉獄ほどではないが俺も体温は高いほうだ。凛よりはきっと暖かい手をしていると思う。
煉獄から聞いた話を再現すると、凛は少しだけ悩んだ後いえ、と首を横に振った。

「有難いんですけど、大丈夫です」
「お、なんでだ?」
「私の手、煉獄さん専用なんです!」

そう言って凛がふにゃりと笑う。
……おいおい煉獄。これは本当に脈ありなんじゃねーか?

「それ、煉獄に直接言ってやれよ」
「え?」
「すっげー喜ぶと思うからさ」

俺がそう言うと凛は多分、言葉の意味をほとんど理解せずに「今度言ってみますね!」とある意味煉獄にとっては嬉しいような、耐えなければいけないような言葉を口にすることを約束した。


そして数日後。煉獄が俺の元へ走ってきて「宇髄、俺はもう駄目かもしれない…!」と顔を真っ赤にさせて頭を抱えていたのは言うまでもない。






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