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「先輩やめてください!それ以上やったら梓乃さんが死んでしまいます!」
後輩の金吾に止められたのは記憶に新しい。
その時私は夢中になって彼女のことを殴っていた。
もっと泣け。
もっと泣け。
もっと、もっと…
* * *
七松小平太と梓乃との出会いは偶然だった。
委員会でバレーをしていた時、七松が放ったボールがたまたま近くを歩いていた彼女にあたってしまったのだ。
しまった。
彼女は確か土井先生の妹で、客人として学園に来ていた子である彼女を怪我させたとなると大問題だ。
すぐさま駆け寄り安否を確認すると、「大丈夫」と言いながらも腕を押さえて泣いていた。
その姿を見たとき七松はぞわりと全身が震えた。
「大丈夫なわけがないでしょう」
滝夜叉丸がすぐさま応急処置をして、保健室へと連れて行った。
その間七松は彼女を見ながら考え事をしていた。
何だこの感情は。
強い者を前にした時の興奮とは似ているようでまるで違う不思議な気持ち。
そして、思ってしまったのだ。
もっとあの泣き顔が見たい、と。
2014/5/16
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