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「君は老けたね」
そう言って男は柿をむしゃりと一口食べた。
老けただなんて女性に向かって言う言葉ではない。
普通なら怒る筈だが、言われた女性は眉を下げ苦笑を浮かべた。
「あなたは全然変わりませんね」
「まあね」と男は言い、また一口頬張った。
「それ庭で採れた柿なんですよ」
彼女が指差す先には一本の立派な柿の木があった。
「そうか…君と初めて会ってから大分経つんだな」
二人が出会ったころに植えた柿の種は長い年月を経て、実を成すほど大きくなっていった。
「さて、私はそろそろお暇するよ。部下に怒られちゃうからね」
「そうですか、では私も出かけましょうか」
男が立ち上がると、それに合わせて女も腰を上げた。
「おや、珍しい。何処へ行くんだい?」
「この世界の姫様のところへ」
2014/5/16
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