指先が踊る


 初めて見た。と零した声には、どうしたって堪え切れなかった可笑しさと、少しの嘲笑が滲んでしまった。机上に横たえたオレのスマートフォンを見詰め、梓喜さんは呆然としている。
 画面のド真ん中にでかでかと表示されている『GAME OVER』の文字。初めて見た、NORMALモードでゲームオーバーになる人。
 ようやく顔を上げた梓喜さんが、笑っているオレを視界に入れて悔しそうに眉を下げる。うぐぅと呻いた。潰れた蛙?

「ちゃうねん」

 おや、と首を傾げる。地方のイントネーションが混じった台詞が彼女の口から出るのは初めて聞いた。てっきり三門に生まれた人だと思っていたが、違うのだろうか。
 私もやりたい! と言ったのは梓喜さんの方だった。ボーダー本部のラウンジでリズムゲームをプレイしていたオレに、彼女は遠慮なしに声を掛けてきた。最近流行っているリズムゲーム。最難関のMASTERモードをミスなしでクリアしたオレを、勝手に隣に座った梓喜さんはぱちぱちと拍手して讃えた。彼女はリズムゲーム未経験だということだったので、易しめのNORMALモードを選択してスマートフォンを預けた。結果がこれである。

「違う、慣れてなかっただけなんだよ」
「EASYモードにします?」
「下があるなら最初からそれで寄越してよ、よしくんの意地悪」

 だってまさか、こんなに下手だとは予想していなかったから。難易度を下げる為に液晶に触れながら、梓喜さんの不器用な指先を思い出す。くく、とまた笑ってしまうオレの腕を、不満げに梓喜さんが小突く。



【お題:不器用】






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