そんな未来は見えないよ


 いつだってずれている二人だった。苗字は嵐山だけを愛していたし、嵐山は苗字に最初で最後の恋を捧げていた──苗字の感情に『愛』なんて綺麗な言葉を当て嵌めてしまって良いのか分からないが、それ以上に相応しい言葉がどれだけ探しても見付からないから便宜上『愛』と名付けることにした──。ずれているというのに何故かぴったり溝が嵌ってしまって、お互いが居なければ生きていけない、みたいな顔をしていた。おれは二人を心底哀れんでいたし、無様だと思っていたけれど、内心、ほんの少しだけ羨んでいた。
 嵐山准と苗字名前が姿を晦ましてから、二年もの月日が流れた。世界の平和を幼い子供が背負うことに重圧を感じていたんじゃないかとか、当然に武器を握るような生活が彼らを凶暴にしたんじゃないかとか、メディアが好き勝手言い立てたのは最初の二週間だけだった。ボーダー内の混乱もやがて収まり、今では都市伝説のように語られるだけ。人殺しの女とその恋人の逃亡を、甘やかな色恋の話みたいに解釈している奴も居る。二人はやっすい昔話になり、二人分の空白はすぐに埋められて、世界は普通に回る。そういうもんだよなあ、とおれはぼんやり思う。
 未だに二人を探しているのなんて、嵐山の家族や旧嵐山隊──彼らは嵐山が居なくなっても長らく「嵐山隊」を名乗っていたが、一年も経たない内に改名を余儀なくされてしまった──のメンバー、それと小南くらいだ。
 小南と苗字は仲が悪かった。とことん馬が合わなかった。断言するが、小南ではなく苗字に非がある。小南は人を無条件に嫌うような奴じゃないが、苗字は『嵐山以外のこの世の全て』を嫌っている──憎んでいる奴だった。生まれながらにして『嵐山の親族』という立ち位置を手にしていた小南のことを、苗字はいっとう嫌っていた。小南と嵐山の間に横たわっていたのは、『家族愛』という、それはそれは健全な愛だった。故に、苗字は小南に対して常に敵意剥き出しだったし、小南はそれを不快に思っていた。そりゃそうだ、そんなつまらない理由で敵視されたら誰でも嫌になる。でもそんなつまらない理由が、あいつの中の全てだった。

「次に会ったらぶん殴ってやるの」

 小南はそう言っていた。准を巻き込んだあの女のこと、許せないのよ、私。小南は泣かなかったが、沢山の人の涙を見ていた。嵐山が居なくなって悲しむ人々の顔を、見ていた。どこまでも純粋な怒りだった。

「そんなことしたらおまえ、あいつに殺されるよ」

 おれの言葉に、小南は心底不愉快そうに眉を顰めた。小南とあいつは根本的に何もかもが違うのだろうな、と他人事のように思った。他人事のように、というか、どこまで行っても他人事なのだ、おれにとってあいつらの話は。
 あいつの愛は小南のそれと違って、酷く不健全な愛だった。




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