完全犯罪が良かった


 あの男が悪いのよ。名前も覚えてないけれど、確か大学の同級生。あいつ、准の悪口を言ったの。あんな奴お飾り隊員だろ、って。准のこともボーダーのことも何も知らないくせに、適当なことを。
 いつもならスルーしてやるような言葉だった。聞くだけ無駄だから。だけどあの日は機嫌が悪かった。せっかく久し振りのデートだったのに、妹が熱を出した、って電話一本で解散になってしまった。映画を観終えて、今から一緒にランチに行こうってところだったのに。映画の感想を話して、この後どこに行こうか相談して、みたいな。そういうなんか、普通のデートが出来るはずだったのに。
 ふたりっきりのはずがひとりぼっちになって、苛々しながら帰路に就いた。そこで会ったのがあの男だった。「一人?」とか訊きやがるからご丁寧に「さっきまで准と居たの」と答えてやったら、悪口が出るわ出るわ。他を下げることでしか自分を上げられない人間はクソだ。こんな男ですら准の『守るべき存在』の一人であることに無性に腹が立って、家まで誘った。そんでまあ、簡潔に結論を言うと、殺した。不機嫌な私に当たられて少し可哀想だとは思うけれど、反省はしていない。男の腹を何度も何度も包丁で刺しながら、先週悠一に会った時に「おまえマジか……」と苦い顔をされたことを思い出した。あの時悠一にはこの未来が見えていたのか。でも、止めなかったんだからあいつも同罪でしょ。
 息の根をしっかり止めたところで、取り敢えず埋めなければ、と思った。重い重い死体を車まで運んだ。トリオン体になればこれくらい簡単に運べるのに。何度もそう思ったけれど、トリガーを起動すれば本部にバレる。こいつの失踪届が出される日はそれほど遠くないだろう。そうなった時、万が一トリガーの使用を理由に疑いの目を向けられたら困る。リスクは減らしておくに限るというものだ。
 トリガーホルダーは家に置いておいた。トリガーホルダーを携帯していたら、それこそ居場所がバレるから。……これだけ色々考えても悠一に証言されれば一発アウトだけど、止めなかったということはそういうことだ。もし告げ口しやがったら殺す。これはただの私怨。
 私はこの日の為に免許を取って車を買ったのだろう。大金をはたいた割にあまり乗っていなかった自動車が、まさかこんな大一番で活躍するとは。
 三門市はこういう時都合が良い。山まで行かなくても人の近寄らない場所がいっぱいあるし、廃墟を漁ったらスコップも見付かった。素晴らしきかな警戒区域。もしかしたら、同じことを考えて埋められた死体が三門市には大量にあるのかもしれない。
 穴を掘って、死体を捨てて、穴を埋めた。大変な作業だった。結果私は疲れ切って、朦朧とした意識で車を運転した。そんで見事にトラックにバーン。記憶があるのはそこまで。
 失敗失敗、全部台無し。相手の運転手がどうなったかなんて興味はないけれど──死んでいたら罪が更に重くなるだろうし、ちょっとは気にした方が良いのかしら──あの事故のせいで車は調べられただろう。家にも入られたかもしれない。私の悪事は暴かれてしまったって訳だ。




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -