不揃いに揃ったふたり


 部下が人を殺した。ついでに失踪した。三門市の希望、嵐山准を連れて。
 苗字が人殺しだという報道が出てから、俺の隊は解散を言い渡された。それには猛反発した。

「苗字名前の事件と私達には、何も関係がありません」

 俺も上層部も互いに譲らず、数日に渡り会議という名の喧嘩をしていた間に、苗字と嵐山は居なくなった。ボーダーはかつてない混乱に包まれ、俺達の処分どころではなくなった。
 結果的に、俺の隊(と嵐山隊)には処分は下されなかった。隊の連帯責任としてしまうには、苗字と嵐山個人の問題が大き過ぎる、という結論だった。こうなると、隊務規定違反程度で降格処分を受けた二宮隊が気の毒にも思えた。実際、犬飼からはいつもの食えない笑み付きで「さすがに平等性に欠けません?」と抗議を受けた。

「人間ってのは不平等なもんだろ」

「主語がデカいなあ」笑い飛ばす犬飼の声色に不満じみたものはなく、取り敢えず噛み付いて笑い話にしとくか、という精神が見え見えだった。俺には不要な気遣いだったが、形だけ受け取っておいた。
 
 
 ──苗字が殺人事件の加害者として報道された日、嵐山は作戦室まで俺を迎えに来た。上層部から、俺を会議室まで連れてくる役目を背負わされたらしかった。本部に居てそこそこ地位のある隊員なら誰でも良かっただろうに、よりにもよって彼だというのが皮肉だった。彼が苗字名前の恋人であるということなんて、彼に任せた人間は知りもしなかっただろう。

「事実だと思うか」

 なんのことか、わざわざ言わなくても嵐山は察したようだった。「名前に聞くまでは分からないです」と、あくまでいつもの声のトーンで答えられたものだから、彼の胆力には驚かされる。

「事実だったらどうするつもりだ、お前は」

 すぐには返事が来なかった。暫し間を空けてから、嵐山は「名前の為になることをするつもりです」と答えた。随分とお綺麗に見えて、その実かなり黒い答えだった。人殺しの為になることって、なんだ。ろくでもないことに違いないだろ、そんなもの。それなのに目の前の男は、まるで正義の決断を下したみたいな真っ直ぐな声色で自分の答えを言葉にしやがるもんだから、虫唾が走る。

「あいつ、俺が居ないと生きていけないんですよ」

 反吐が出そうだった。ご都合主義の砂糖みたいに甘い恋愛ドラマを観ている時よりも、ずっと気分が悪かった。ここまで共感の生まれない恋バナがあるか。

「お前、あいつと一緒に死ねるのか」
「名前と一緒なら地獄にでも行けますけど、取り敢えずは一緒に生きたいですね」

 それまで俺は、嵐山のことをそこそこまともな人間だと思っていた。蓋を開けてみればどうだ、こいつも大概歪んでるじゃねーか。

「お似合いだよ、お前ら」

 会議室に着く。隣で嵐山がありがとうございます、と笑った。褒めたつもりなどないのに。褒められていないことなど、分かっているだろうに。
 嵐山はトリガーホルダーを掲げる。パネルがトリガーを認証すると、ドアが開く。さあ、当事者不在の裁判の時間だ。あいつはきっと有罪だが、それでも俺は自分の無罪を主張する。だって苗字名前は所詮、赤の他人だから。

「お待たせしました」

 頭を下げ、名を名乗る。あいつに代わる隊員は誰にしようか、と考えながら。さっさと次を探そう。どうせあいつはもう、帰ってこない。




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