悲しいくらいにお似合いだ


「あの日、俺は直前まで名前と一緒に居たんだ」

 同級生を殺した殺人犯として苗字の顔がテレビに映ったその日、嵐山は酷く疲れきったような顔で玉狛支部を訪ねてきた。出迎えた小南は嵐山の目を覚まそうとして、あいつは止めときなさいだとかなんとか言って掴みかかっていたが、おれは小南から嵐山を奪い取った。嵐山の手を強引に引いて、自分の部屋まで連れていった。
 嵐山は、まるで自分のせいで苗字が人を殺したみたいに苦しんでいた。実際、あいつが人を殺す理由なんて嵐山しかないのだろう。だけど嵐山はそれを知らない。嵐山だけが知らない。自分がどれほど重い愛に包まれているのかをこいつは知らない。自分が居なければあいつは生きていけないことだって知っているのに、それがあまりにも大きな愛だとは気付いていない。ただ、あの日自分が名前と離れなければ、と後悔していた。
 あいつは止めとけと小南は言った。おれもそう思う。けれど、あいつにしか嵐山を幸せに出来ないことも、おれは知ってしまっている。

「好きなんだ、あいつのことが」

 苗字が事故に遭ったと聞いた一昨日も、その翌日の昨日も、苗字の名が殺人犯として知れ渡った今日も、こいつは完璧に仕事をこなしていた。そしてほんの短い時間を面会に当てていた。嵐山はそういう奴だった。大事な恋人が目を覚まさない数日間でさえ、仕事を捨てられない奴だった。もしこれが苗字でなく家族だったら、嵐山は仕事を休んでいたかもしれない。そういう、彼なりに真っ直ぐな正義があって、その道から決して逸れずに生きていた。苗字は、嵐山を縛る『正義』が何よりも嫌いだった。

「嵐山は、あいつが人殺しでも好きなの? 苗字のこと」
「好きだよ。何も変わらない」

 嵐山は一切の迷いもなしに言い切った。こいつも大概可笑しい。恋は盲目、のお手本みたいだ。

「なら大丈夫だよ」

 おれは多分、死ぬまで彼らの恋愛を理解することが出来ない。理解しようと努めていた時期もあったが、諦めた。だから彼らの未来に干渉するのは止めた。正解が分からないから。でも多分、あいつが可愛く笑ってるから、今見えているこの未来が正解なのだ。世界は彼らに不正解を突き付けるかもしれないが、それでも、彼らにとっては。

「あいつもどうせ、何があっても愛してるよ、おまえのこと」




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