罪を背負わぬ共犯者
おれは苗字が人を殺すことを知っていた。見えていた。
上層部に呼び出されたついでに太刀川さんと
「何か用?」
「目に入ったから話し掛けただけだよ」
見えたのは、目の前の女が知らない男に包丁を突き立てる未来だった。その後死んだ男を車に乗せ、死体とドライブする。警戒区域に死体を埋める。今まで色々な未来を見てきたけれど、久し振りに血の赤を見た。しかも数ある可能性の一つとしてではなく、ただ一つの確定した、はっきり見える未来ときた。思わず「おまえマジか……」と苦い顔をしてしまった。止めるか? 人を殺すな、って? そんな言葉で止まるようならそもそも人を殺してないだろ。っていうかおまえ、その男の何がそれほど憎いんだよ。そんなに何度も刺さなくたって良いだろうが。痛そうじゃないか。
「何?」
「……なんでもない」
──あの時止めなかった時点で、おれも共犯だ。だからって一緒に罪を被るつもりなんて微塵もないけれど。おれはそんなにお人好しじゃない。
不思議と罪悪感はなくて、それは多分、あいつが未来で嵐山ととびきり幸せそうに笑っているのが見えていたせいだった。
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