可愛く笑うな、腹が立つ


 例の如く『嵐山以外』であるおれのことを苗字は嫌っていたが、同時に、哀れんでもいた。おれのサイドエフェクトについて知ってから、あいつはおれに『可哀想な男』というレッテルを貼った。おれ達は互いに哀れみ合っていた。互いのことを可哀想な人間だと思っていた。
 その不名誉なレッテルについて、ただ心の中で思ったり、陰で話したりするのではなく、おれに直接言ってしまうのだからあいつは人付き合いが上手くいかないのだ。人と関係を築くのがとことん下手な奴だった。
 ある時なんとなく、あいつがそういう態度なのは、同じことをされても自分が傷付かないからだと気付いた。自分がされて嫌なことは人にもやるなとは良く言うが、あいつは自分がされても嫌じゃないから人にやる奴だった。いつからか、おれもあいつに対して遠慮というものをしなくなった。

「おまえの『それ』、割と気持ち悪いよ」

 苗字と嵐山が付き合い始めたのは、二人が出会って二度目の春だった。苗字から告白したらしい。見えていなかった訳ではないが限りなく確率の低い未来だったから、おれは少なからず驚いた。見えるとか見えないとかは置いといて、普通の恋人みたいに振る舞う二人を想像出来なかったというのもある。
 苗字はラウンジで、嵐山が防衛任務から帰るのを待っていた。声を掛けるのはいつもおれの方だった。あいつがおれに雑談を持ち掛けることなんて、一度たりともなかった。一人の背中に呼び掛けて、隣に座った。ただの暇潰しだった。おれにとっての暇潰しであって、あいつにとっての暇潰しにはならないことを知っていた。嵐山を待っているというだけで、どれほど無駄で長い時間でも、あいつにとっては潰す暇もない程有意義な時間になるからだ。そういうところが重くて、気持ち悪いな、とただの第三者でしかないおれは感じていた。
『それ』がなんのことかなんて一言も言っていないのに、「そうでしょうね」と苗字は肯定した。自分の嵐山に対する愛情が、はたから見れば気持ちの悪いものだという自覚があるらしかった。

「歪んでるよ、おまえのそれは」
「今日はいつにも増して攻撃的ね。何か嫌なことでもあったの?」
「嵐山を遊びに誘ったら、おまえと出掛ける予定があるからって断られた」
「あはは、そりゃめでたいわね」

 苗字は心底愉快そうに笑う。腹が立つくらいに可愛らしい笑顔だった。




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