少しは和己の彼女を見習ってほしい、と何度思ったことか。
奥ゆかしい、そんな言葉がこれほど似合わない女がこの世に存在していていいのかと思う。
思ったことは包み隠さずそのまま吐露し、我慢なんて以ての外。
そして何より、納得できないことはもっと嫌いなのだ。
口癖と言えば「バッカじゃないの」なんて性格がそのまま現れたもので、練習で約束を破ってしまう俺が悪いのだから余計に何も言えやしないのだけれど。

「慎吾が約束守ってくれる時は、引退した後だね」
「お前ね、彼氏ができるだけ長く活躍できるのを願うのが彼女だろうが」
「バッカじゃないの」
「はいはい、お前の性格はもうとっくに分かってるよ」
「私がいつ、さっさと夏を終わらせろって言った?」
「は?」
「この最後の夏のために、私がどれだけ約束破られたと思ってんの。甲子園に行けなかったらタダじゃおかないからね」

分かりにくい遠回しな思いやりと激励は、俺だけが分かっていれば良い。
少しだけ頬を赤く染めた様子は、彼女なりの必死の素直さだった。
この約束だけは何があっても守らなくては。
密かに秘めていたその決意は、思いがけないところで挫けてしまうことになる。。
まさかの予選一回戦負けは俺たち選手だけでなく、マネージャーも和己の彼女も、泣き崩れるほどの衝撃だったというのに、彼女はただ真っ直ぐと前を向いていたような気がする。
自分のことで精一杯だった俺に何を言うでもなく何をするでもなく、ただ隣にいた。
随分と手厳しいことを言われると思っていたけれど、励ましもない代わりに責められることもない。
でも俺は、それに随分と救われたのだろう。

「ねぇ、どこ行くの?」
「映画にプラネタリウム、博物館に遊園地に水族館。どれがいい?」
「急にどうしたの」
「どれも俺が約束破っちまっただろ」
「…まぁ、そうだけど」
「埋め合わせする約束くらいは、守らせてくれよ」

色々と思い返す約束で、今守れそうな約束はそれくらいしかなかった。
それはとても情けない話しかもしれないけれど、一方的に破ってばかりだった約束をそろそろ守ってやりたい。
約束が流れた時の悪態とは裏腹の表情はいつになっても慣れなくて、少し寂しげに睫毛を伏せるその顔が苦手で堪らなかった。
ようやく割けるようになった時間を、できるだけ彼女のために使いたいと思うのは至極当然だろう。

「慎吾は何も分かってない」
「じゃぁ、どうすりゃいい?」
「私は慎吾に、無理してもらいたいわけじゃない」
「無理なんてしてねぇよ」
「行きたいなら、野球部見に行ったっていいんだよ」
「俺はもう引退したの」
「先輩が後輩を気にかけるのは普通でしょ」
「これからの時間は、お前に使いたいんだよ」
「バッカじゃないの」
「…流石に俺も怒るぞ?」
「見くびらないでよ」
「何が」
「私は慎吾に、幸せにしてほしいなんて思ってない」
「それがお前の答え?」
「バカ!慎吾のバカ!私が、慎吾を幸せにしてあげたいんだよ!」

何で分かんないのよバカ!とそれはそれはご立腹で俺を睨み上げるその顔は、薄っすらを頬を赤く染めていた。
俺は十分に幸せ者なのだろう。
冷たい彼女の指先にそっと触れ、指をゆっくりと絡ませる。
いつかし暗くなってしまった空には、一等星が存在を煌びやかに主張していて、「天然のプラネタリウム?」とおどけて見せれば、「バッカじゃないの」と彼女が笑った。


スーパーノヴァ


少しは和己の彼女を見習ってほしい、と何度思ったことか。
奥ゆかしい、そんな言葉がこれほど似合わない女がこの世に存在していていいのかと思う。
だけど俺には、お前なんだ。
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