俺は今、キングオブヘタレという賞にノミネートされている、と思う。
本当に自分でも悲しくなるくらいに情けない。
だから阿部にクソレフト呼ばわりされるのだろう…いや、あれは俺がエラーしたからだけれど。
次に会った時、一体どんな顔して会えば良いのだろうか。
同じクラスだと言うのに、しっかりしろよ俺!と自分で自分を激励してみても、俺がキングオブヘタレである事実は何も変わらない。
頭を抱え込み、その場にしゃがむと己の情けない行いの数々が頭を過る。

そもそも何故、俺がこんなにも落ち込んでるのかと言うと、遡ること数分前。
このキングオブヘタレである俺が、この俺が、好きな子に頑張って告白して来たという偉業を達成したことは、素直に評価されるべきことだと思う。
当たって砕けろの精神で、自分言うのはアレだけれど、良く決心したと誉めてやりたいくらいだった。
俺はいつだって自分が傷付くのは嫌で、自分が可愛い人間だから、告白なんてとんでもないというタイプだったにも関わらず、今回ばかりは自分が傷付こうがどうなろうが、あの子を他のやつに取られてたまるか、と決死の覚悟を決めたのだ。
あの子が他の誰かの彼女になることが、自分が傷付くよりずっと恐い。
だからこそ一世一代の大博打に出たのだけれど、思い出しただけでも泣きそうだ。
ミーティングだけだからと言って無理矢理待ってもらい、自分の精一杯の気持ちをぶつけあとは彼女の返事を待つばかりという時に、田島が俺の声が聞こえたからと教室に入って来たことで緊張が頂点に達していながらその場にギリギリ留まっていた俺の全てが流れた瞬間だった。
「おー!水谷こんなとこにいたのかよ!みんなでこれからコンビニいこーぜ!」なんて田島らしい横槍だ。
いや、田島はこの状況を知らなかった。
田島に悪気なんてものは微塵もないので、仕方ないと言えば仕方ないのだけれど。
あの空気の読めなさは天下一品だった。
流石は田島様である。
おかげで俺は恥ずかしさやら照れ臭さやらで埋め尽くされ、パニックのあまり彼女を残して逃げてしまったという挽回しようもない見事な失態を犯してしまった。
はい、終わりました。
全て、綺麗さっぱり終わりました。
もうこれで一生笑い者が決定したふがいない俺に、どうかどなたか一発ビンタでもかましてくれませんか。
誰か夢だと言ってくれ、と頭をもたげたところでやはり事実が変わるはずもなく。
既に野球部にも、この失態は知れ渡っていることだろう。
さようなら、俺の安寧。
そしてこんにちは、底辺の日々。
野球部でもバカにされ、クラスでは阿部や泉を筆頭にバカにされ、ついでに彼女とその友達が冷たい眼差しで蔑みながら、俺は高校3年間を過ごすことになるだろう。
仕方ない、それだけのことをしでかした。
彼女をひとり取り残して恥をかかせ、言い訳のしようがないほどに俺は情けない。
似合わないことに果敢に挑戦してみたところで、俺はやはり自分が一番可愛くて、自分が傷付くことが一番嫌いな情けない野郎のままだったという、ただのつまらない話だ。

膝と頭を擦り付けて悶々と考えを巡らせていると、「水谷見っけ!」と田島が俺の背中を力強くと叩く。
とうとう始まる。
始まりの鐘が聞こえる。
俺の情けなさを余すことなくいびり倒される日々が見える。
恐る恐る田島を見上げると、いつもなら心強い太陽のような笑顔が輝いていた。
ちくしょう、今の俺にはその笑顔は堪えるぜ。
俺が田島だったなら、せめて田島のように自信に結果が伴う男であったなら、彼女に恥をかかせることも、こうしてひとり頭を悩ませることもなかったのだろう。
そんな恨み言を唱えていると、「しっかりしろよ!水谷!」ともう一度、田島が俺の背中を叩いた。

「俺、あの子から伝言預かってんだ」
「いいよ言わなくて…大体分かってるから」
「絶対伝えてねって言われちゃったんだけど」
「え、そんなに恨まれてるの!?」

いや、良い。
最後ぐらいはせめて男らしく受け止めようではないか。
どうせキングオブヘタレのレッテルは挽回できないのなら、思いがけず恥をかくはめになった彼女の気が少しでも収まるように、俺は何でも受け入れよう。
よし来い!と顔を上げれば、ニシシ!と笑って田島が大声で言った。

「私も好きだから早く戻って来て、だってよ!」

ほらほら、早く!走れよ!と今度は俺の背中を押す田島に、「…マジで?」と遅れながらに反応すると、「マジで!顔真っ赤にして言ってた!」と一発逆転サヨナラホームランの予感に気付いた時には既に走っていた。

「どうなったか今度ちゃんと報告しろよな、ゲンミツに!」

そんな激励とも取れる言葉を背に、とにかく走った。
もしかしたら、そうと見せかけてビンタの一発でもお見舞いされるのかもしれない。
もしかしたら、『ドッキリ!』の看板と共に貶められるかもしれない。
この短い人生で培ったマイナス思考は止め処なく『危険』を示して俺の足を止めようと躍起になるけれど、そんなもの今の俺には恐るるに足らず。
恥ならとっくにかいている。
お先真っ暗だと絶望した明日に、少しの可能性が残っているのなら俺はもう何も恐れずにそれを掴み取るしかないのだ。

待ってて!
もう一度ちゃんと言うから!
今度は逃げずに、君の答えを聞くから!

勢いで開けたドアの向こうに、さっきと同じところに立っている君がいる。
息も絶え絶え、汗まみれ、髪だってボサボサで制服もくしゃくしゃだけれど俺は言う。

「君のことが、大好きです!」


女神は微笑んだ!


「私も水谷くんが、大好きです」

薔薇色の明日よこんにちは!
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