良郎、ねぇ良郎。
幸せがこんなにもすぐ傍にあったなんて私、知らなかったよ。
「んー?…どした?」
「ううん、何でもない」
少し埃っぽい狭い布団の中で、肩身狭く寄り添う身体の熱はもう冷めている。
すっかり眠りの体勢に入っている良郎が、瞼を擦りながら私の頭を撫でる手も、間隔がどんどんと長くなっていた。
「寝ていいよ?」
「んー」
「私もそのうち寝るし、ね?」
「でも俺が寝たらお前、ひとりになっちゃうしよぉ」
寝ぼけている時や眠いのを堪えている時は、思わぬ言葉をもらえることが多い。
毎回寝ることをどうしてそんなに耐えているのか不思議だったけれど、今初めてその理由を知った。
随分と嬉しいことを言ってくれるものだ。
落ちてしまいそうな瞼を寸前で見開き、そしてまた徐々に下がっていく瞼が何とも愛しかった。
「良郎」
「ん?」
「眠くなってきた」
「そっか」
「うん、だからもう寝よう」
おやすみ。
そう言葉を発する途中で、良郎からは健やかな寝息が漏れる。
本当にギリギリのところで起きていてくれたのだなと思うと、子どもみたいで優しくて嬉しくて他に何もいらないとさえ感じてしまう。
ねぇ、良郎。
本当はまだ眠くなんてないよ。
すっかり目は冴えてしまっているし、少し肌寒い気候も手伝って眠気なんて一向にやってくる気配はないのだ。
隣で気持ちよさそうに眠り込んだ金色の髪の毛を、そっと梳いて私も瞼を落とす。
「明日もずっと、続きますように」
まだ眠くはないけれど、音も光もないこの空間でただ良郎の温もりだけを感じていたい。
ネバーランド永遠なんて信じられるほどもう子どもではいられないけれど、良郎との日々には永遠が存在している気がした。