高校を卒業して、久しぶりに会って連絡先を交換した。
どこで会ったか、どんな話をしていたかはもう定かではないけれど、その時に繋がった関わりは今もこうして続いているのだから不思議だ。
それがいつしかお互い特別な存在になっているなんて、誰が想像しただろう。
ねぇ、高校生の私。
今のこの様子をみたらあんたは何て言う?
信じられない!嘘でしょ!?
そんな奇声混じりの悲鳴が飛ばされるのは、間違いなさそうだと思わずクツクツ漏れた笑い声は、静寂に包まれる部屋の中では目立つ。
案の定、目の前で寝息を立てていた圭介はゆっくりと瞳を開いて今にも閉じてしまいそうなそれを懸命に維持した。

「…寝れない?」
「うん」

寝ぼけているからか、かすれた声で投げられた問いかけに短く応える。
するとのろっと両腕が伸ばされ、「おいで」とまだ眠気を帯びた声でお呼びがかかる。
それに応えるようにベッドの中をのそのそと移動して、圭介の体にぴたりと寄り添った。

「お、今日は素直」
「でしょー」
「眠くねーの?」
「ううん、眠いんだけど眠れないんだよね」
「何だそりゃ」
「ねっ」

私も良く分かんないや、と圭介の首元に顔を埋めて猫のように擦り寄る。
すると今度は圭介が、音が出そうなほどギューっと私を抱きしめてくれた。
温もりが直接伝わるというのは、どうしてこんなにも安心できるのだろうか。
温かい圭介の体温と、大好きな圭介の匂いで満たされて重くなり始める瞼に必死に抵抗した。

「眠くないんじゃなくて、眠りたくないのかも」
「何で?」
「だって、圭介がおめでとうって言ってくれてこうして傍にいてくれるのに、寝ちゃったら勿体ないじゃん」
「一緒に寝るのもそんな珍しくねぇよ?」
「うん」
「でも、お前の誕生日は今日しかないか」
「うん」
「そんな日に俺がいて嬉しいって思ってくれんだ?」
「思っちゃ悪い?」
「いーや、可愛いこと言うなぁと思って」
「そりゃどうも」

せっかくの嬉しい言葉も、照れ臭さで思わず天邪鬼になってしまう。
けれど圭介はそんな私の性格をよく知ってくれている。
もう一度ギューっと抱き締められれば、私の機嫌が上向きになることも知り尽くしているのだ。
ずるいなぁ、と思う。

「でもちゃんと寝ないと、朝に響くぞ」
「うん」
「朝からが本番だろ?そこでへたったらどーすんだ」
「ねぇ、どこ連れてってくれるの?」
「まだ内緒」
「ケチ」
「何とでも」
「楽しみだなぁ」
「あんまハードル上げないでくれる?」
「まぁハッキリ言うとどこでもいいんだけどね」
「ハッキリ言ったな」
「そう断り入れたじゃん」

そうだけど、と苦笑いを零す圭介の顔を見るために、反り返るように顔を上げる。
どした?という問いかけに、小さく首を振った。
理由はない。
ただ圭介が今ここで私と一緒にいてくれることを、見て、聞いて、触れて、感じたいのだ。
私の持てる全ての感覚で、圭介の存在をなぞりたい。
そんなこと口に出せば良からぬ方向へ話を持っていかれそうで、言いはしないけれど。

「とりあえず寝ましょうか、お嬢さん」

何度か私の髪を撫で、そう言った圭介を困らせるように「やだ」と言う。
やっぱり困ったような苦笑いで「じゃぁ朝からの予定はなしになんぞ?」なんて卑怯なことを言うので、思いっきり頬を膨らませて顔を見ると静かに圭介の唇が私の額と鼻と唇に落ちた。

「ちゃんと寝て、時間通りに起きれたら思いっきりおめでとうって言ってやるから。今は大人しく寝なさい」
「はーい」
「素直でよろしい」

やっぱり、ずるい。
私がどうすれば機嫌良く言うことを聞くのかを熟知した、玄人の技を感じる。
そう分かっていても、私はその通りになってしまうのだから仕方ない。
私はここでしか生きられないのではないかと思うほど、圭介の隣は居心地が良く幸福なのだ。

「圭介」
「んー?」
「私、何にもいらないよ?」
「何で?」
「圭介がいてくれればそれでいい」
「可愛いこと言ってくれて嬉しいけど、お前が生まれた特別な日じゃん?普段何もしてやれてねぇし、そんな日くらい彼女孝行させてよ」

優しく何度も髪を撫でる手に、自分のそれを合わせる。
どこまでも私を嬉しくさせてくれる圭介に、私はきちんと返せているだろうか。
そんなことを思いながら、指を絡めて掌を握った。
圭介からも同じくらいの力加減で返事が届く。

「ありがとう。生まれてきて、良かった」

素直に心からの想いを告げれば、圭介が愛しそうな表情で微笑んで両腕が私を放さないように包み込んだ。
ここまでされれば、寝ないわけにはいかない。
自然と重くなる瞼をゆっくりと降ろして、朝を待ちわびよう。
圭介の隣で眠り、圭介の隣で目覚め、圭介ととりとめのない話をして、圭介とご飯を食べて、圭介と生きる。
そんなことを当たり前に繰り返しながら、今日という日を大切にしたいと思った。

「じゃ、とりあえずオヤスミ」
「うん、おやすみ」

触れ合ったところから、溶けてしまえばいい。
夢と現実の間を歩いている頃、一足早く圭介から寝息が漏れる。
相変わらず寝つきがいいなぁ、と思わず漏れた笑顔のまま、暗い部屋で溶けていくようにまどろむ意識の中、圭介の息遣いを感じながら眠りに落ちた。


呼吸
それは、生きるために必要なこと


あぁ、そうだ。
ここでしか私が生きられないのは、ここでしか息の仕方が分からないからだ。


(いつかの若宮Happy Birthday!)
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