「グーで鳩尾かチョキで目潰しか好きな方を選ばせてやる」
「パーで頭撫で撫ででお願いします」
「よーし、歯ぁ食いしばれ」
「おかしい!おかしい!その手の振りかぶり方は明らかに平手打ちじゃん!」

ほー、良く分かったな。
そう言って開いた掌を高く掲げると、「ストップ!落ち着いて!まずは話し合おう!」と甲高い声が悲鳴を上げる。
一体何度、口酸っぱく言えば分かるのだろうか。
体育終わりに喉をカラカラにして帰って来てみれば、これを踏まえてたっぷり残していたはずの500mlのパックがすっかり空になっていた。
犯人の目星など、考えるよりも前に分かっている。
同じことが何度も繰り返していれば学習するのが人間という生き物で、それでも油断にかまけて仕舞い忘れていた少し前の自分を呪った。
仕方なく新しく買ったジュースを見て、悔しさが尚も募る。
あいつのために新しいものを買ってきたようなものではないか、と。

「どういう教育受けたらそうなるんですかねー」
「ケチケチしないでよ。減るもんじゃないんだから」
「目ぇかっぽじってよーく見ろ。減ってんだろ。減ってるから空になんだよ、な?」
「大変おいしく頂きました」

悪びれる様子がないどころか、うっぷ!と勢いよく吐き出されたゲップに怒っている俺が何故馬鹿を見ている気分になるのだろうか。
おい聞いてんのかよ、と首根っこを掴み上げても「聞いてる聞いてる。聞いてます」と既に心はここにあらず。
次は浜田のくわえているパンに狙いを定めている女に、デコピンを一発お見舞いした。

「いったぁ!」
「おぅ、痛くしたからな」
「何すんの!?」
「女がみっともねぇ真似すんなよ」
「喉が潤ったらお腹が空く、これは自然の摂理なのだよ泉くん」
「どんだけ人にたかって生きてくつもりだよ」
「別にそんなつもりないけどさ」
「っつかあんまそういうの良くないと思うぜ」
「何で?」
「勘違いするやついるかもしんねぇじゃん」

俺みたいに。
なんてことは到底言えないけれど。
そんな俺の気も知らずに目を丸くして、「そういうもんかなぁ」と不思議そうな顔をしながら当人は首を傾げた。
こんな面倒な女を好きになったのか自分が、とてつもなく不思議だ。

「もうやめとけよ」
「うーん、考えとく」
「お前なぁ…」
「だから泉以外はもうしないってば」
「は?何で俺だけ」
「だって泉には勘違いしてもらわなきゃ困るもん」

にっこりと笑顔をひとつ添えてから、新しくストローを通したばかりの俺のジュースを我が物顔で吸い上げ、俺と浜田に大きな衝撃を残しながら彼女は颯爽と女子の群れの中に消えていった。


ごく純粋な侵略者でもって
僕の平静は終わる



「片思い卒業じゃん。おめでとう」
「死ね浜田!」
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テーマ「人外ファンタジー」
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