100題 | ナノ




「俺はね、ジローと安城と3人でああでもないこうでもないって言いながら、楽しく気の向くままにできればそれだけで良かったんだよ。でもあの2人は違った。2人が俺に望んだのは『夕べに躯を』を超えるもの、更に評価されるもので、俺たちはその点において決定的で致命的な意識の差を生んでしまったんだ。お互い譲れないほどの、さ」

カンヤ祭が無事に終わり、生徒たちが後片付けに走り回る様子を眺めながら、2人きりには随分と手広い教室で陸山は本音らしき言葉を零した。
『十文字事件』の真犯人も、その事件に『クドリャフカの順番』が大きく関わっていることも、陸山は知っていたのだろう。。
それでも陸山は安城春菜が書いた『クドリャフカの順番』を読むことはなくて、結局田辺の真意は理解できないままだと漏らされた笑みは、どこか憂いを帯びていた。
当事者ではない私にその話をしたところで、私は陸山の想いも田辺の想いも、汲み取ることはできないし、そうする権利すら要してはいない。

「話せば分かることだと思うのは、私が部外者だからかな」
「どうだろう。本当はその通りなんだろうけど、でも俺もジローもそれができなかったんだ。お互いを良く知っているだけに、お互いが引かないこともまた良く分かってるからね」

これはきっと永遠に平行線を辿る果てしない擦れ違いだ、と夕日に照らされた輪郭が諦めたように微笑む。
私は、何の言葉も持てない無力な存在なのだ。
この場所で、陸山にとって、ここにいるのは私でなくてもよかったのだろう。
だけど今この場所で、陸山の傍にいるのは、私であることもまた紛れもない事実で、それにはきっと何が意味があるに違いないと都合よく解釈をして、伸ばした手は逆光で滲む。

「私たちはまだ、子供だよ」
「ん?」
「思ったようにできないことがあったって、理解できないことがあったって、何もおかしくないんだよ」

もっと、伝えるべき言葉がどこかに転がっているような気がしたけれど、今の私にそれを探し当てられるだけの力はない。
夕日に透ける色素の薄い髪をそっと梳くように柔らかく撫でることしかできない私を、陸山は瞼を閉じて受け入れた。
やるせなさを惜しげもなく晒す陸山と、どう接するのが正解なのかを必死に探す滑稽な私。
どうにもならないもどかしさの中、私たちのアンバランスで絶妙な間違いだらけの触れ合いを、私はきっと大人になっても忘れられない瞬間として記憶しているのだ。
そして、この瞳に焼き付く光景はずっと、色褪せることさえないのだろう。
私がもっと大人だったなら、と呪ったことさえも。

(130807)
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テーマ「人外ファンタジー」
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