言いたいことと言っていいことが違うことを、私は中学生の頃に知った。 言いたいことを言いたいままに言ってしまえば、人は簡単に孤立するのだ。 だから言いたいと思った言葉をいつも、頭の中でグルグルと巡らせて、その場の空気や雰囲気、相手との相性どうこうを考えてから言葉を口にするようになると、今度は「タイミングがずれてて話しにくい」と言われ、やっぱり人は簡単に孤立するのだ。 そして私は考えた。 私が喋ろうとするから悪いのだ、と。 だったら必要以上のことは言わなければいいのだ、と。 私にとって言葉とは、声とは、ただの凶器でしかなかった。 「ほんっと、無口だよなー」 そんだけ喋んなかったらオレ、多分死んでるわ。 そう言ってケラケラと笑う高尾くんは、日誌にシャーペンを走らせる私をまじまじと眺めていた。 黙りこくっていれば、大抵は話しかけてこなくなるのに。 最低限の返事しか囁かない私に、むしろ興味津々とばかりに言葉を投げる彼は鋭い視線で私という人間を暴こうとしているようで、居心地悪く固唾を飲めば、「なぁ、何考えてんの?」と尋ね口調で覗き込まれた。 「ここにはオレしかいないし、オレしか聞いてねぇからさ、思ったこと言ってみなって。少なくともオレは、あんたの言葉で傷付きやしねーよ?」 催促するわけでもなく、ましてや脅迫するわけでもなく、彼にとって何の利点もないことに、どうしてそんな言葉をかけてくれるのだろうか。 私にとって言葉とは、声とは、ただの凶器でしかなかった。 でも結局は、言葉と声でしか救われる術などなかったのだと、閉じっぱなしの喉がグッと熱を帯びた。 (130807) |