「鶴岡八幡宮って、必勝祈願のご利益あったっけ?」 「デカイ神社だしあるんじゃねーの?」 「や、こういうのは神様も得手不得手があったような気がするんだけど」 「マジか。でもまぁデカイしいけんだろ」 「デカイことにどれだけ信頼置いてんの?」 地区予選の直前に、ちょっと付き合ってくれと幼馴染から頼まれた。 練習漬けの毎日で、そうでなくても朝から走ったり八百屋の手伝いをしたり、四六時中身体を動かしているようなものなのだから、休息日くらいゆっくりすれば良いのに。 じっとしているのが落ち着かないのか、呼び出しに応じて電車に揺られ、乗り継ぎ、また電車に揺られ、辿り着いた鎌倉駅で「…まさか観光とか言わないよね?」と訝しく尋ねた私に、「必勝祈願ってやつ」と真一がようやく目的を告げた。 「確か縁結びとか、そんなんが主流じゃなかったかなぁ」 「構わねーよ。勝利と縁結んでもらわなきゃなんねーんだ。一緒だ一緒」 「どうしよう」 「何だよ」 「真一のくせに、割と上手いこと言ってる…」 「あー!もう!うっせーな!とにかく俺たちにゃ神頼みが必要なんだよ!」 賽銭箱に500円玉ぶち込んでやるぜ!とすっかり意気込んでいる姿を見ると、これ以上水を差すのも些か気が引ける。 本人が良いと言うなら良いのだろう。 ここまで安くはない電車賃を支払って出向いたからには、何もせずにUターンされた方が腹も立つ。 ぐんぐん先に進む背中に付いて歩き、聳え立つ石階段を真一はすんなりと駆け抜けて行った。 私はというと、歩いて登っているにも関わらず半分の時点で息切れをしてる始末なのだけれど、振り返った真一はほとんど息も切らしていなくて、日々の積み重ねの成果なのだろう。 「置いてかないでよー」 「お前がおせーんだろ」 「真一、引っ張って」 「何でだよ」 「トレーニングだと思ってさぁ」 「仕方ねーな…ったく」 本当に渋々と言った様子で、力なくぶらりと掲げた手を取り、真一は加減しながら進む。 ようやく辿り着いたてっぺんでは、流石に観光名所とあって祭事があるわけでもないのに人が多い。 離れた場所からでは手を伸ばしてもお賽銭を入れられそうにはなくて、何とか人の間を縫おうとしていると、ひとつ大きな輝きが綺麗な放物線を描いて落ちるべきところに落下した。 思わずその軌道の元を辿れば、真一が既に両手を合わせて拝み倒している。 一緒に行った初詣で見せた、適当に投げたお賽銭が信じられない方向に飛んで消えたノーコンさなど、そこには微塵もなかった。 本当に、頑張ってるんだなぁ。 些細なことだけれど、私がそう感じるには十分すぎることだった。 ようやく何とか投げられそうなところまで距離を詰め、五円玉を放り投げる。 この神社のご利益さえ適当にしか考えていなかったのだから、きちんとしたお参りの作法でお願いしているはずもないので、私だけでもと二礼二拍一礼をする。 長く一緒にいますが、こんなに頑張っている姿を見るのは初めてです。 だから、ひとつでも多く勝てるように背中を押してあげてください。 守備範囲じゃないんだけど、と神様を困らせていそうだなとも思いながら、最後にひとつだけ、本来ここの神様の守備範囲内のことを付け足した。 欲深と思われるかもしれないけれど、これもまた私にとっては死活問題なのだ。 「っしゃ。これでできることは全部やったな。お前もちゃんと祈ってくれたんだよな?」 「当たり前でしょ。休みの日に叩き起こされたんだから、満足する結果持ってこないと怒るからね」 「へーへー。頑張りますよ」 相変わらず口うるせー女だな、と憎まれ口を叩きながら、何故か真一は嬉しそうに笑った。 本当は、ちょっとだけズルをしたのだけれど。 それはまぁ、ご愛嬌ってことで私と神様だけの秘密にしておいてもらえると助かります。 『これはほんのおまけで構いません。幼馴染から少しだけ、先に進めますように』 (140413) |