「御幸くんが、お酒飲める年齢になったらね」 どれだけ言葉を尽くしても、態度を示しても、俺が捧げる全てをのらりくらりとかわしては「年上に憧れる気持ちは分かるよ」なんて、ありふれた牽制を繰り返す。 たった三年早く生まれたということが彼女にとって俺が決して超えることのできない絶対的な盾であり、俺にどんな口実も許さない純然たる矛だった。 俺と同い年だった頃の自分はこうだった、ああだったと色々な武器を並べ、俺と彼女の立ち位置の違い、既に自分はそのラインをとうの昔に越えているということをひけらかすのだ。 まるで俺が血迷っているとでも言いたげに、勘違いや憧れを混同して手っ取り早く恋愛感情に結び付けているのだと暗に仄めかしては、「学校にも可愛い子、たくさんいるでしょ?」などとのたまった。 だったら三年、あんたの言う酒の飲める年齢になるまで俺が本当に待ち続けたなら、今度こそ余計な建前を築かず真剣に向き合ってくれると言うのか。 それまで、あんたは誰のものにもならずに待ってくれると言うのか。 今までずっと燻っていたそんな想いをぶつければ、言い訳を必死に探している様子で「三年なんてあっと言う間だよ。でもその頃には御幸くんの気持ちも変わってる」と瞼を下げた。 そのあっと言う間の三年とやらで俺の必死を勘違いだと笑うくせに、とじりじりとにじり寄った壁へドンと乱暴に両拳を投げ付けた。 「仮に俺が三年待って、あんたと酒も飲めるようになって、まだあんたのことが好きでも同じこと繰り返すんだろうな」 「…え?」 「今度は立場の違いでまた勘違いだって笑われんの?それとももう相手がいるからって、律儀に待った俺を笑う?」 自嘲して見せれば、大きく象られた瞳が揺れる。 「三年ってのはそんなに俺とあんたを遠ざけるもんなの?」 「御幸くんと同い年の私を、君はきっと気にも留めないよ」 同じ制服に袖を通し、同じ学校に通い、同じ教室で授業を受けていたとしても君は私のことなんて名前くらいしか知らない女の子としか見てくれないよ、きっと。 震える声が告げた理由は俺にとってはあまりにもくだらなくて、けれど彼女にとってはどうしようもなく譲れないものらしく、たった三年と言っていたくせに結局その三年に縛られて身動きが取れなかったのは彼女の方なのだ。 たった三年早く生まれたということが彼女にとって俺が決して超えることのできない絶対的な盾であり、俺にどんな口実も許さない純然たる矛であるのなら、それはまた彼女にとって俺を選べない何よりの壁だったのだろう。 ようやく掴めた現状を打破する取っ掛かりをみすみす見逃せるはずもなく、小さな顔の横に付いたままの手を滑らせ指を絡め取る。 「三年前の、17歳のあんたを好きになったかは知らない。三年後の、20歳になった俺がまだあんたを好きかも知らない。でも今の俺は、今のあんたが好きだよ」 何をどれだけ不安に想い、不満に感じても、俺と彼女の間に流れる三年はどう逆立ちしたって縮まりはしない。 彼女がかつて見ていた教室の風景も、肺を満たしていた学校の空気も何ひとつ俺は知ることはできないし、今過ごしている生活もまた同じなのだ。 そして彼女も、俺が生きている時間を知ることはできない。 だからと言って何もかも、理解できない言い訳にもならないだろう。 考えても仕方のないことに堂々巡りを繰り返すのなら、俺のことで四苦八苦してくれればいいと、低い位置に頼りなさげに佇む肩へ頭を預けた。 「今の俺を選んでよ。そしたら三年後の俺はあんたと一緒に酒飲んで、やっぱりあんたが好きだって思ってるから」 三年後の俺が、三年なんてあっと言う間だと笑えるように、ほら早く。 早く今の俺に辿り着いて。 (140413) |