「何度も言うけどさ、あんたに構われたら私すっごい大変なの」 「じゃぁオレも何度も言うっスよ。話したいって思うから話しかけてんだって」 周りなんて関係ないでしょ、と含みを持たせた言い分に私はいつもイライラさせられっぱなしだ。 この男は自分がどれだけ注目されていて、どれだけ期待されているかを熟知している。 その上で吹っかけてくる啖呵なだけに厄介極まりなかった。 構われるままに接しても周りは黙ってはいないし、だからと言って構われているのを無視して流しても周りは結局黙ってはいない。 どうしたってこの男が絡むと、私はこの世界から簡単に爪弾きにされるのだ。 こんな隔絶された世界でそんな息苦しいこと、死んでもごめんだ。 「なーんでそんなに素っ気ないんスか?」 「私は、平穏な学校生活というものを送れればそれでいいんだよ」 「えー」 「そりゃあんたにしたらツマンナイって思うかもしれないけど、それが普通。当たり前なの。あんたはその普通や当たり前から外れたとこにいるし、分かんないかもしれないけどさ」 いや、分かる必要もないのか。 そういう人間は結局、死ぬまでそうして生きて行くのだろう。 それはそれで気の毒な気もするけれど、本人が自分には合っていると思っているのなら恵まれたことじゃないか。 だったらそういう高みの人間同士、どうぞよろしくやってください。 私は私で平々凡々、可もなく不可もないあんたの言うツマンナイ人生を精一杯謳歌して死んでいこう。 いまだ後ろを付いて歩く派手な頭に、タンと足を鳴らして振り向いた。 「じゃぁ聞くけど、何でそんなに私に構うの」 あんた私のことが好きなの?なんて思春期特有の浅ましい自惚れを微塵も感じさせない圧倒感を見せつける黄瀬に、自然な疑問を投げかければ「そんなこと?」と簡単に答えを持っている素振りで一歩、二歩、と私へと近付く。 「簡単な話っスよ」 覗き込む、端整な顔が私の瞳を。 怪しくも見える雰囲気に一瞬、飲み込まれそうになる。 けれど妙な意地が働いて負けじと睨み上げれば鮮やかな色をちらつかせながらそっと口角を上げて笑った黄瀬はひどく柔らかな表情で、思わず拍子抜けしてしまった。 「オレ、あんたの迷惑になりたい」 それだけでいい、といつの間にか縮められた距離で囁かれる耳に熱が拭き込まれる。 こんなもの、まるで懇願じゃないか。 卑怯者。 そんな暴言のひとつでもくれてやりたい。 けれどそれさえもこの男には甘やかに響くというのか。 結局全ての言葉を飲み込み、見目麗しい男に突き付けられた感情の引き金が引かれるその瞬間、弾け飛ぶ私の欠片が映す色の予感にただ、怯えている。 (131106) |