「あの頃の私たちと今の私たちってさ、結局ほとんど変わってないよね」 「身も蓋もないこと言うねぇ」 「どうやったらそこそこでやってけるか、なんてことばかり上手くなってるだけで、あの子たちの方がよっぽど大人に見える時があるよ」 借りていた車のキーを返しに訪れた先には、この頃女の子の楽しそうに弾む声が響いている。 店の種類としては、決して女の子が来るようなところではないのだけれど。 その若々しく賑やかな集団をぼんやり眺めていると、ハルくんの友達とその彼女が良く顔を出してくれるのだと尋ねてもいないのに満善が教えてくれた。 かれこれ10年以上の付き合いにもなると、言葉にもしていない想いを汲み取られてしまうようだ。 どうせならそんなものよりもっと、掬い上げてほしいものがあるのに。 そんな恨み言を並べることに疲れることさえなくなった私には、彼らの真っ直ぐさは欠片も残っていない。 これが年を取るってやつかしら、と盛大に溜息を漏らせば、隣りからケタケタと笑う声にムッと顔を上げた。 サングラスで隠す瞳は、いつまで経っても私の気持ちを勝手に薄暗く塗り替えてしまうのだ。 「あんなキラッキラなの見せられたら、私もそろそろ春めいた話のひとつでもほしくなるよ」 「へぇ、お前でもそんなこと考えるんだな」 「まだ女は捨ててないわよ失礼ね」 カチカチ、とガスの抜けかけたライターで煙草に火を点け、白煙を吐き出す。 ゆらゆらと行方を定めないそれを追いかけながら、何やってんだかと思うのも両手では足りないほどに繰り返して来た。 そろそろ、潮時なのかもしれない。 自然とそんな風に考え始めてしまうほどに閉じ込め続けた想いは歪に捻じ曲がり、もはや執着と呼べるものにまで形を変えてしまっていた。 これはもう、あの子たちが瞳を輝かせるものとは似ても似つかないものだ。 もう一度吸い込んだ煙をふぅと空気に投げ出せば、唐突に奪われたそれは満善の唇へと収まってしまう。 思わず呆気に取られながらも、慌てる様を見せるわけにはいかなくて「切らしてたの?」なんて遠回しに嫌味を告げる。 「いんや、さっき買ってきたとこ」 「…じゃぁ何」 「予約、入れとこうと思って」 お前の、と身体の一部のようになっているサングラスを外し、潜んでいた鋭い眼差しで満善がそう言った。 「とあるケジメ付けるまでは、特定の恋人はつくらないんじゃなかったっけ?」 「まぁな」 「高校生の女の子、泣かせたくせに」 「そうだな」 「矛盾してるよね。ふざけてんの?」 「だから残念ながら今はまだ予約止まり。でも誰かに手ぇ付けられたらオレ、ちょっと何しちゃうか分かんないし」 「夏目ちゃん…だっけ?あの子がこんな勝手な男の毒牙に引っかからなくて良かったって心底思うよ」 「まぁそれも本音なんだろうけど、本当にそれだけか?」 「続きが聞きたいなら、さっさとケジメとやらに落とし前付けて来ることね」 もともとは私ものだったはずのそれが満善の唇から離れると同時に、ただ触れるだけのキスをする。 「仕方ないから貰われてあげる。でもまだよ。まだ、全部はあげないんだから」 お互い、こんなことで顔を真っ赤にさせるほどの純情はもう持ち合わせてはいないけれど、どちらの苦みかも分からない味を噛みしめながらいつか夢見た甘い恋とは程遠い狡い駆け引きに、逸る感覚だけは今も色褪せてはいないらしい。 (130905) |