「ねぇ、いつまで待たせるつもり?」 「あと少しでできるんだ、もう少し待ってくれ」 「それ、1時間前にも聞いたけど」 呼ばれて訪ねて来たはいいけれど、呼びつけた本人は細かな作業に夢中で一向に私を見ようとはしない。 これはいくらなんでもあんまりでは?と、何度か声をかけてみても、あと少しを繰り返すだけで既に数時間が経過していた。 「よし!できたぞ!」 「それはおめでとう。だけどその前に私に言うことがあると思わない?」 「思ったより手こずっちまったんだ。待たせてすまない」 少し離れたところに腰を降ろしていたガイが、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべながらゆっくりと近付いて来る。 いまだ戸惑いがちに、私から突然触れるとまだ驚いて逃げてしまうけれど、それでも懸命に伸ばされた手が肌に触れるとどうにもならない気持ちになるのだ。 これを君に、と恐る恐る取られた手に重みが伝わった。 「何だか分かるかい?」 「私からガイを奪った諸悪の根源ね」 「まぁそう言わないでくれ。ほら、ここを押すと」 掌に乗る箱型のそれにガイが触れれば、ティアの譜歌が響き渡る。 「ティアの譜歌が好きだって言ってただろ?これでいつでも好きな時に聴けるよ。俺から君へ、初めてのプレゼントだ。気に入ってくれるといいんだが」 伺うよう眉を提げた顔に覗き込まれると、あんなにも些細な会話を覚えていてくれたのかと損ねていた機嫌すら、簡単に喜びに変わってしまうのだ。 「ありがとう、すごく嬉しい。でもプレゼントなんてどうして突然?誕生日でも何でもないのに」 「理由がないといけないかい?」 「そういうわけじゃないけど」 「ただ君の喜ぶ顔が見たかったのさ。あとは、愛想尽かさないでくれっていう賄賂かな」 「なら、まんまと乗せられてしまったわけね」 「受け取ったからには、返品は受け付けないよ」 これからもよろしく、と音機関が乗せられたままの手が持ち上げられ、その指先にガイの唇が柔らかく触れた。 さらりとこういうことをやってのけるのが、この男の憎たらしいところでもある。 結局恋人を夢中にさせる敵でさえも堪らなく大切な宝物にされてしまうのだから、恋心というのは何と厄介で何と愛しいものか。 (130822) |