100題 | ナノ




恋愛小説とは面白いのか?と眼鏡をクィっと上げて高いところから見下ろす様子は、おおよそ人に何かを尋ねる殊勝な態度ではなかった。
確かに休み時間を返上して、私はそれを読んでいる。
だからと言って、それを緑間から尋ねられる理由はひとつもない。
なのに、「どうなのだよ」と思いがけず返事を催促されたので、「興味あるなら読んでみる?」と読みかけのそれを手渡せば、次の日に今度は緑間からそれが差し出された。

「え、もう読んだの?」
「この程度ならすぐに読み切れる」
「面白かった?」
「俺には理解できないのだよ」

わけが分からない、と言いたげに眉間に皺を寄せた顔は、思ったとおりの反応だなぁと苦笑いを浮かべる。

「だがお前にはこれが面白いものなのだろう?」
「面白いって言うより、ドキドキするって言う方がしっくりくるかな」
「どの話にも言えることだが、回りくどくて何が言いたいのかが分からん」
「まぁそれが恋愛小説の醍醐味って言うか、見せ場って言うか」
「俺なら一言で片を付けられるのだよ」

無駄なことが嫌いな緑間らしい言い分だ。
でもそれじゃぁ情緒がないじゃない?と些細な意見を伝えれば、一歩だけ緑間が私へと歩み寄った。
真っ直ぐな視線と、悔しいほどに長い睫毛が全て私に向けられる。
いつもは遠く高く感じていた視線が、私だけに注がれる。
そして彼は言った。
私が感じていた距離でさえも、簡単に乗り越えて。

「好きだ」

(130822)
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