恋愛小説とは面白いのか?と眼鏡をクィっと上げて高いところから見下ろす様子は、おおよそ人に何かを尋ねる殊勝な態度ではなかった。 確かに休み時間を返上して、私はそれを読んでいる。 だからと言って、それを緑間から尋ねられる理由はひとつもない。 なのに、「どうなのだよ」と思いがけず返事を催促されたので、「興味あるなら読んでみる?」と読みかけのそれを手渡せば、次の日に今度は緑間からそれが差し出された。 「え、もう読んだの?」 「この程度ならすぐに読み切れる」 「面白かった?」 「俺には理解できないのだよ」 わけが分からない、と言いたげに眉間に皺を寄せた顔は、思ったとおりの反応だなぁと苦笑いを浮かべる。 「だがお前にはこれが面白いものなのだろう?」 「面白いって言うより、ドキドキするって言う方がしっくりくるかな」 「どの話にも言えることだが、回りくどくて何が言いたいのかが分からん」 「まぁそれが恋愛小説の醍醐味って言うか、見せ場って言うか」 「俺なら一言で片を付けられるのだよ」 無駄なことが嫌いな緑間らしい言い分だ。 でもそれじゃぁ情緒がないじゃない?と些細な意見を伝えれば、一歩だけ緑間が私へと歩み寄った。 真っ直ぐな視線と、悔しいほどに長い睫毛が全て私に向けられる。 いつもは遠く高く感じていた視線が、私だけに注がれる。 そして彼は言った。 私が感じていた距離でさえも、簡単に乗り越えて。 「好きだ」 (130822) |