人類最強、その称号に違わぬ働きを見せるその人の見る世界は一体どれだけ美しく、どれだけ腐って見えているのだろうか。 「おい、クソメガネはどうした」 「リヴァイ兵長?」 「どこに消えやがった」 「確かエルヴィン団長に呼ばれたと聞きましたが」 「…そうか。それにしても相変わらずクソの掃き溜めのような部屋だな、ここは」 ハンジ分隊長が散り散りに置いたままにしてある書類をまとめていると、背中から暴言が盛大な舌打ちと共に飛んで来る。 なるほど、リヴァイ兵長にはここが肥溜めのように見えているのか、とその視界を一端を思わぬところで知れた。 クソの掃き溜め、と揶揄されるほどかどうかはさておき、確かに尋常ならざる散らかり方をしている部屋であることは確かだった。 だからと言って、勝手に手は出せない。 これでもハンジ分隊長にとっては、『最適』な空間なのだ。 どこに何を置いたかは驚くほど把握していて、今考えていることが落ち着かない限りは勝手に触ることはできないということでもある。 既に慣れている私には取り留めのない光景ではあるけれど、綺麗好きと噂高いリヴァイ兵長には耐え難い光景なのだろう。 書類が揃っていることを確認し、トントンと整えてそれを小脇の抱えれば、いまだ扉にもたれかかっているリヴァイ兵長に頭を下げた。 「私はこれで出て行きますが、ここで待たれますか?」 「馬鹿を言うな。こんなところに長くいてたまるか」 そうですか、と短く言葉を返せば何故か並ぶ肩にしばらく廊下を同じ速度で歩く。 これは一体どういう状況か、と考えてみても分かるはずもなくて、いつも誰かが傍にいる人と並んで歩くことなどこの先一生ないだろう、と意を決して疑問を投げかけた。 「ひとつ、お聞きしてもよろしいでしょうか」 「何だ」 「リヴァイ兵長が今ご覧になっている光景は、どう見えていらっしゃいますか」 訝しげな表情を隠す様子もなく、一層深くなった眉間の皺に思わず怯みそうになるけれど、聞いてしまったものは仕方ない。 暴言と舌打ちを覚悟しながら足を動かし続ければ、意外にも思っていたような言葉はなく、クィと顎でとある場所が指された。 「廊下の隅に、埃が溜まっている」 「…ええ、まぁ」 「掃除が行き届いてねぇ。当番の班にやり直しと言っておけ」 「はい、伝えておきます」 これで満足か、と続けられた言葉に「ありがとうございました」という返事は些か的外れなような気がしたけれど、それ以外に当てはまる返事も思い付かなかった。 人類最強、その称号に違わぬ働きを見せるその人の見る世界は、存外細かい。 (130814) |